語り合い
翌日の朝、英理はルイの時計屋さんに向かっていた。
ピーチに聞いた時計屋までの道順を何とか間違えずに時計屋にたどり着く。
お店の中には時計を組み立ててるルイがいた。
ルイは英理に気付き、手を止める。
「あ、おはようございます」
英理は軽く頭をさげる。
「おはよう、何かあった?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど、ちょっと話せるかな?」
「ああ。今の時間は店の中に俺一人だし、聞くよ?」
英理とルイはテーブル越しに向かい合って座る。
「俺は顔が整っている女は嫌いだが、あんたは例外だな」
「何で顔が整っている女が嫌いなの?」
「優遇される制度をあたりまえのように使ってるからだ。人格とかもそれに応じた感じになってることがほとんどだしな」
「昨日、私がルイさんに何してる人なのか聞いて、それでルイさんも聞き返してきて、私、何も答えなかったよね?」
「ああ」
「信じてもらえないと思うけど、私は転生してこの世界に来たんだ」
ルイは英理をじっと見つめる。
「昨日、この世界にこの姿で転生したの。だから、この姿は本当の私の姿じゃないんだ」
英理はルイの様子を窺うように見る。
「続けて」
ルイの言葉に促され、英理はこれまでの経緯を全て説明する。自分が平凡顔であったこと、地球という世界に住んでいたこと。病気で死んだことなど一通り話す。
「……なるほど」
ルイは英理を見つめたままだ。
「信じてもらえないよね?」
「いや、信じるよ」
「え? 信じてくれるの? 何で?」
「俺にそんな嘘の話をする意味がないから。それに、あんたのその顔で、火事場であんな行動をとれる人間がいたという事実は転生という話を信じた方が納得できる」
「でも、一つ疑問なのは、何でその話をわざわざ俺に話したかってことだな」
「それは……なんかルイさんには誤解してほしくなかったから」
「誤解?」
「私が美人を優遇する制度を好んで使ってると思われたくなかった。今はお金がないから仕方なく使ってるけど、私はこの制度を好きで使ってるわけじゃない」
「そっか」
「ルイさんは何で見ず知らずの人のために火の中に飛び込めるの?」
「俺はそういう性分なんだよ」
そう言って笑うルイの顔を見て、英理はドキッとする。
ああ……最初に対面した時にも感じたけど、この人はふつうのイケメンにはない違った魅力を感じる。たぶん精神とかの違いだろうな。カッコいいな。
13時ごろ英理はメンデル広場の中央カフェに向かっていた。
私の秘密って、嘘の可能性が高い。転生したことは今のところルイしか知らないし、直感でこれまでそういった人がこの世界に現れなかったのもわかる。
となれば、口説くための方便だろうけど、念のために行ってみよう。この世界では、力ずくで迫られることはないみたいだし、聞くだけ聞いてみよう。
ちょっと不思議な雰囲気の男だったしね。
英理が中央カフェに着くと、クラウンはすでに席に座っていた。
カフェには誰もいなく周辺にも人はない。おそらくクラウンが指示したのだろうと英理は思う。
「お越しいただき、ありがとうございます」
「どうも。それで私の秘密って何ですか?」
英理は席に座ると同時に単刀直入に聞く。
「申し訳ありません。あれは嘘です」
ほら、やっぱり……。
英理はため息をつき、席を立ち上がろうとした。
「エリさんはこの世界の美女を優遇した制度や階級制度をどう思いますか?」
クラウンは立ち去ろうとする英理に声をかける。
「馬鹿馬鹿しい限りだと思います」
クラウンは英理の吐き捨てるような言葉を聞き、不敵な笑みを浮かべる。
「俺と手を組みませんか?」
英理は振り向いてクラウンを見る。
「この世界の馬鹿げた制度を一緒に壊しましょう」