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異世界一の美貌

人生何が起こるかわからないものだ。


私は高校1年生まで平凡な日々を送っていた。


しかし、そんなありふれた毎日は高校2年生の春に崩れ去った。


私は病に罹り、余命1年を宣告された。


病院での入院生活を余儀なくされ、私は絶望を味わうことになる。


なぜ私なのか? 今まで大きな病気に罹ったこともなく、何も悪いこともしてない、何も特別なものを持っていない私なのか? 人生で一度も恋人ができることもなく幕引きなんてあんまりだと思った。


凡庸な顔立ちの私だが、それでもいつかはイケメンでなくても、同じ凡庸な顔立ちで優しい男性と巡り合えたらいいなと心の奥底で願っていた。


私は最初の3ヵ月、理不尽なこの世界を恨みまくった。

精神的にすっかり荒みきっていた私は、お見舞いに来てくれた友人や家族に対して邪険な態度をとった。しかし4ヵ月目にもなると、恨んでも何も変わらないことを悟り、私はあきらめた。


そんな失意の中、暇つぶしとして読み始めたのが転生の物語の本だ。

転生などありえないと思っていたし、死んだら無になるのだと考えていたが、自分が転生して第2の人生を謳歌している姿を妄想することは楽しかった。


同時に、いつ自分の人生に幕が下りるのかわからない状況の中、私は不安で押しつぶされそうだった。


そして、その瞬間は不意に来た。


けたたましい音が鳴り響く中、栗栖英理くりすえりは病室のベッドの上で苦悶の表情を浮かべる。


苦しい……痛い!!


「死ぬ……」


激痛が走る中、眉間にしわを寄せ、歯を食いしばり、必死で痛みに耐えようとしていたが、意識が遠のいていく。


そして痛みがなくなり、体が軽くなったような感じがした。


ああ……終わったんだ。

最期は家族に見守られて安らかに息を引き取ることを想像していたけれど、タイミングの問題で家族どころかナースも誰もいない病室で、うるさい音が鳴り響く中、ベッドの上で一人のたうち回って死んだんだ。


英理は自分が死んだと直感した。


そして次の瞬間、信じられない光景が眼前に広がっていた。


英理は草むらの上に立っていた。そして、視界に入ってきた風景は、都心であるかのように高層ビルが立ち並んでいる。


「え……何で?」


英理は茫然と立ち尽くす。


私は確かに死んだはず――。


しきりにあたりを見回しながら歩き出す。都心の近くにある公園のような場所だった。周りには誰も人がいない。


ふと自分の体が視界に入ると、身に着けている服が病室のものではなく、おしゃれな服であることに気づく。


そして、近くにあった公衆トイレを通り過ぎようとした時に足を止めた。


窓ガラスに映った自分の顔を見て驚愕する。


「あ!?」


ガラスに反射して映し出されていたのは、絶世の美女と言える顔だった。


英理は信じられず、ガラスを覗き込む。


「これ、私!?」


次の瞬間、いろいろなことが頭の中を駆け巡った。


そっか、今わかった。


直感というんだろうか。鏡に映った顔を見た瞬間に、いろいろなことがわかった。絶対に間違いないと確信できる。


私は死んだ。そして異世界に転生したんだ。


この異世界で死ねば、今度こそ無になるということも自然とわかる。


異世界に転生したのは、私が特別だからとかそういうわけじゃなく、ランダムで選ばれたということもわかる。同時に、私が何も特別な人間でないこともわかる。


そして、私はもう地球へ二度と帰れないことも――。


英理は空を見上げる。


……未練はない。いつ死ぬかわからない状態だったから、友達や家族とは事前に別れの言葉も交わしていた。強いて挙げるなら、今際の時に家族に見守られて死ねなかったことくらい。


英理は前を向く。


ここから私の第2の人生が始まるんだ。


英理は高層ビル群に向かって歩き出した。



繁華街を歩いていると、日本にいるのではと錯覚を起こしそうになるほど、その風景は現代の日本そのものであった。人々は日本語を話し、日本語が映し出されたモニターがある。

だが西洋風と東洋風の顔立ちを持つ人が半々の割合ほどいて、その全員が日本語を話している点だけが日本とは違った感じに思えた。


……すごく視線を感じる。


英理は行き交う人々が自分を凝視してくることに気づいた。中にはすれ違った後、わざわざUターンして、自分の顔を何度も見ようとしてくる者もいた。


またこの人だ。すれ違いを装って私の顔をじっくり見ようとしてくる。ばれてるっつーの。


でも、無理ないか。今の私の容姿は異世界の女性の中で、ずば抜けて美しいことが街を歩いていればわかる。おそらく私は異世界一の美貌を手にしたんだろう。なんとなく直感でわかる。


美人って街を歩くと、こんな感じなんだなー。異性の視線が集中する。地球じゃ平凡顔だったから知らなかった。それに地球では黒髪だったのに、ピンク色のロングヘアーとなってしまったので嫌でも目立つ。


「お美しいですね」


「え?」


英理の横に突然、緑色の天然パーマのイケメン男性が並んで歩く。地球ではアイドルグループのような感じの風貌だ。


「あなたのような美しい方は見たことがない。一緒にお食事でもいかがですか?」


英理は、イケメンはおろか男性からそのような誘いを受けたことがないのでどぎまぎした。


しかし次の瞬間、一気に冷めた。


……こいつ、地球だったら平凡顔の私に絶対声かけてねえだろ。


「あー、結構です。ごめんなさい」


英理はイケメンから立ち去ろうとすると、目の前をイケメンの片腕が勢いよく遮り、壁に手が押し当てられた。


びっくりしたー! 何? 壁ドン!? ありえないんですけど……あともう少しで張り手になってたんですけど……。


驚きながらイケメンの顔を見ると、壁際に追い詰められている体勢となってしまう。


「逃がしませんよ。僕、顔には自信があるんです。 好みじゃありませんか?」

イケメンはじりじりと英理に顔を近づけてくる。


「いや、その……」


英理はイケメンの甘いルックスが至近距離に迫り、ドキドキして顔を赤らめるが、決意する。


私は屈しないっ!!!


英理は赤面して目を瞑りながらも、勢いよくイケメンの股関を蹴り上げる。


「ほげっ」


イケメンは声にならない悲鳴を上げ、顔を歪めて、その場でうずくまる。


……ほげって言った。


英理は慌ててその場から走り去る。


イケメンのうずくまっている姿が見えなくなり、人混みに紛れると、一息ついて歩き出す。


たぶん私はこの世界で恋人を作ることができないと思う……。


英理は歩きながら、ぼんやりと中空を見つめる。


この世界で私に言い寄ってくる男は絶対にこの超絶美貌に惹かれている。でも、この顔は私の顔ではない。今この体に入っている私の人格は、地球での平凡顔の私により形成されたものだ。その人格がまったく別の人の体に入ったようなものだ。この先、私に恋する男がいくら現れようと、じゃあ転生前の私の姿でも恋したかといったら別問題だろう。それは、このルックスのおかげということだ。私という人格とともに長年かけて形成されたわけでもない突然与えられた絶世の美女の姿のおかげということだ。

それって、本当の意味で私に恋したと言えるだろうか?


英理はため息をつく。


転生前の自分はそんなこと考えもしなかった。病室では美女に転生してイケメンたちでハーレムを築いて楽しく第2の人生を謳歌する妄想をしてたのに。

実際に転生してみて、初めて気づいた。

私はこういう状況で恋愛を楽しめるような人間じゃない。


しばらく歩いていると、美味しそうな匂いが漂ってきた。


英理は周囲を見回し、匂いの発生源である屋台を見つける。


美味しそう……あ! 私、お金ないじゃん。


英理は衣服のポケットを探るが何も入っていない。バッグも所持していない。


……まあ、なんとかなるでしょ。

私は散々これまで絶望を味わってきた。この程度じゃ取り乱したりしない。


英理はお金を持ってなかったが、美味しそうなお肉を近くで見ようと屋台へ向かっていく。


「お! お姉ちゃん、べっぴんさんだね!」


お肉を焼いている店主が英理に気付く。


「ちょっと待ってなよ」


店主は小皿にお肉をのっけて、ソースをかける。


「ほら、食べな」


店主は英理にお肉がのった小皿を差し出す。


「え?……私、お金持ってないです」


「何言ってんだい。そんだけぺっぴんさんなら、どこの店もフリーパスだろ」


は?……フリーパス?


英理は耳を疑う。


店主からお肉がのった小皿を受け取った英理は念のために確認する。


「本当に、お金払わなくてもいいですね?」


「あたりまえだろ?」


店主は不思議そうな顔をして英理を見る。


その時、英理と同じくらいの年齢の女の子が英理の横に並ぶ。


「お肉、1枚ください」


「はいよ! 1500円ね」


店主は英理にあげたのと同じお肉を小皿にのっけ、同じようにソースをかけ、女の子から代金を受け取り、お肉がのった小皿を女の子に渡す。


英理は目を疑った。


何で?……おかしいでしょ。


思わず店主を凝視する。


英理の視線に気づいた店主はウインクする。


「美人ってのは得だね!」


英理はイラッとした。


代金を支払った女の子が転生前の自分に重なって見えた。不快感のあまり、お肉がのったお皿を叩き返そうか一瞬迷うが、お金を持っていない状況であったため、仕方なくお肉を食べる。


英理は不快感を覚えながら美味しい食べ物を食べたのは初めてだった。


その後も歩いていると、本来有料であるはずのものを無料で渡そうとしてくるお店の店員や無料で宿泊できると誘うホテルマンに遭遇する。


英理は確信を深めていった。この世界は容姿の優れた女性が明らかに優遇されるような制度があるということを。


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