7話
遅れてすみません。
現地住民を保護したあと、周辺の捜索を行ったが、特に何もなく捜索を終了した。
その翌日。一番年長の少女が目を覚ました。半日くらい寝ていたが、怪我は酷くなかったので、疲れていたのだろう。
『ここは···』
「あ、おはようございます。体調はどうですか?」
『あなたは、あ、いえ』
一旦言葉を切ると、深呼吸をする。
「あなたは、誰ですか?」
「私は自衛隊員よ。医官だけど。守山 朱美よ。よろしくね。ええと···」
「フレナ村から来ました、マレイアと申します。あの、私以外の子たちはどこですか?」
「隣のベッドで寝てるわ。みんな峠はこえたから安心していいわよ。マレイアさんの傷は酷くなかったから、もう普通に生活できるわ」
「あ、あの···」
不安げな声でマレイアが朱美を呼び止める。
「どうしたの?どこか痛いところとかあるの?」
「いえ、そうではなく、私たちにはあなた方へお支払できるものがありませんから···」
「ああ、そういうこと?それについては問題ないわ。詳しくはあとで別の人が説明しに来てくれると思うわ」
「え、あ、はい···」
「じゃあ、お大事に。また来るからね」
「ありがとうございました···」
守山医官がドアを開けて出ていくと、すぐに白い服を着た女性が入ってくる。
「こんにちは、私は皆さんの看護をしています。碧山 京花といいます。しばらくの間よろしくお願いしますね」
「は、はい」
「じゃあ早速、色々説明するけど、いいかしら?」
「わかりました。お願いします」
京花さんは、いくつかの紙を取り出した。どれも貴族が使うような白さの紙だ。それが何枚もある。
「まず、あなたたちはどこから来たのか、教えてもらえるかしら」
「私たちは、レウス山の麓の村の者です。私と一緒にいた子達もです」
「レウス山はどこにあるのかしら。外が見えるから、大雑把に教えてくれる?」
「レウス山は···あそこの、雪がある山です」
「あれがレウス山?きれいな山ね」
レウス山。頂上には一年中雪があり、相当な高さであるため、旅人には南の道しるべと言われている山である。
「私たちの村は、その道しるべの村と言われているのです」
「なるほど、じゃあ、何でこんな森に入ったの?怪我もしてたけれど」
「レウス山は、いくつかの宗教の聖地なんです」
「···そ、そう」
京花の背筋に、冷たい汗が流れる。複数の宗教の聖地。地球ではその周りの地域では争いが耐えなかったこともあり、あまり安全なイメージはない。
これは、早めに報告あげた方がいいわね。宗教戦争に巻き込まれなんかしたら大変だわ。そう京花が考えていると、さらに不穏な言葉をマレイアが言う。
「突然、騎竜に乗った兵士に襲われたんです」
「き、騎竜?なにそれ」
「騎竜を知らないんですか?」
「え、ええ、教えてもらえるかしら」
騎竜。この世界で一般的な軍用の騎乗動物である。馬も用いられているが、騎竜の方が体格もよく、怯えない。自分が強いことをわかっているためである。
「普通に知られているのはこのくらいだと思います」
「騎竜ね···わかったわ。そいつらに襲われたのね?」
「はい、お母さんたちと私たちは村の奥にいたんですけど、お父さんが来て、逃げろって。お母さんはお父さんといると言って、私もいるって言ったんですけど、子どもたちを連れて行けって言われて言われて。それから何日も走って逃げたんです···」
どうやら嫌なことを思い出したようで、マレイアは泣き出した。
今の会話から察するに、父親と母親が残り、子どもたちのなかで最も年上だったこのマレイアに任せたのだろう。両親はおそらくもう···。
「大丈夫、ここはもう安全だから。私たちがしっかり守るからね」
「は、はい···!」
京花にすがりついて泣く。京花もしっかりと抱き締める。
それは、村を焼け出されてから少女が流したはじめての涙であった。人目を憚らず、いつまでも泣き続けた。