3話
今回は国内の状況を詳しく···
政府でまず問題になったのは、石油である。2020年代から国内の石油備蓄基地を増やし、現段階で250日分を確保している。無論、物資配給法が施行されたため、もう少しは長くもつとされている。
化石燃料を多く使うのは発電所と自動車であるため、火力発電所は現在も発電量の多くを賄っているが、一部を停止する。
日本の原子力発電所で廃炉になっていなかったのは、2034年現在20ヵ所である。そのうち新設は9ヵ所あり、どれも一基当たり150万kwが最大出力である。これを最大出力運転させることで、火力発電量を抑える。
また、自然エネルギーによる発電量を増やす。採算がとれず、半ば放棄されたものがあるため、それを修理して国管理とし、使用する。
さらに電力を減らすため、日本全国で各管区1日に3時間の計画停電が行われた。
もちろん、このような状況が長く続いて、不満が生まれないわけもなかったが、政府の説明にある程度理解を示しているのだった。
「なんとか一年弱は時間が稼げそうですね。しかしそれ以上となると厳しいでしょう」
「金融が法律で止められているとはいえ、実質倒産になっている企業も多いようです。特に第三次産業は壊滅状態ですよ」
「食料は減反政策の廃止と農地拡充法でなんとかなればいいのですが」
「一年くらいは芋が主食になりそうですな」
暗い空気が漂うのは、国家安全保障会議が行われている部屋だった。
もともと国家安全保障会議とは、日本の防衛に関することがメインであり、こういった状況を想定しているわけではないが、新たに対象となった。
「製造業のうち、石油を使用する、または原料とするものには生産量を減らすよう要請しています」
「原子力発電は確か今建設中が3ヶ所あったはずだが、そっちはどうだ」
「作業を急がせるとの回答でした。一番工事が進んでいる串間原発一号機はあと半年あれば完成するとのことですが、そこから試運転、改修してようやく商用運転に入れます。あと一番の問題は、原発ができても燃料がないことです。一応運転停止中の原発には残っているようなので、そこからまわせば問題ありませんが···」
串間原発は、九州電力が宮崎県串間市に建設している原発である。新型の150万kw改良型沸騰水型軽水炉で、日立GEが原子炉を製造した最新鋭の原子力発電所である。
「まあ、しっかりとした手順は重要だからな。仕方がないだろう」
「あと、工期短縮には費用がかかるとのことで、160億円の補助を要請しています」
「ま、そのくらいはかかるだろうな。仕方ないだろう。いいだろうか。財務大臣?」
「仕方ないだろうな」
武智財務大臣はため息をつきつつうなずく。園田経済産業大臣も顔を歪めているが、特に言うことは無いようである。
「そういえば、国民はどうなってる?海外にいるものの安否も確認できたといっていたが」
「ああ、いえ、それがよくわからないのですが、目覚めたら自分の家に放り出されていたみたいです」
「は?なんだそれは?」
「外国人は消えているようです。日本国籍を持つ国民だけしかいません」
「それは···まあ、国民が無事ならよかった。だが、全容把握を急がせないといけないな」
海外の日本人はなぜか日本に戻ってきているが、同時に日本人以外が消えた。外国人による暴動などの不安は消えたが、経済的には大打撃である。
「さて、では次。陸地捜索に関してだ」
「では、私から報告します」
分厚い資料を持って防衛大臣の後ろにいたのは、大林防衛事務次官である。
「発見された陸地ですが、部隊展開の前調査として空撮を行いました。詳しく調査したところ、森は海岸線から最大1750kmほど広がっています。どちらかというと温帯林ではなく、熱帯林という感じでしょうか。気温はそんなに変わらないようですが、なぜか熱帯林のようになっています」
「1750kmか。それは大きいな。もしかすると鉱産資源も期待できるかもしれん」
「森を抜けた先には集落が確認できました。しかし文明レベルは近世レベルですね」
「人がいたのか!?何人くらいだ」
ちょっとした騒ぎが起こった。異世界へと来てはじめて人を確認したのだから、当然である。
「今回確認されたのは100人程度です。しかし道が続いているようでしたから、おそらくそれなりの規模の国に類するものの保護下にあると思われます」
「では、まずは陸地に拠点を作ってから、外交交渉を行うのが良いでしょうな。いきなり押し掛けると驚かれるでしょうし」
方針は変わらず、まずは拠点の設営を進めることになった。