2話
未来の日本の教科書には、こう書かれている。
2034年7月22日、日本は異世界に転移した---と。
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もとの世界が大混乱している時、日本も大混乱に陥っていた。むしろ日本の方がひどい状態にあったといえるだろう。
いきなり世界中の国との連絡が途絶えたのだ。株取引もすべて停止、外国に繋がるインターネット、電話、航空便はすべて機能を停止した。
そういった事態を受けて、日本政府は、八重山総理が次の日に記者会見を行うと発表した。
「ただいまより、総理の緊急会見を行います」
「えー、昨日の午前8時3分に、世界各国との通信が途絶えた件についてですが、現在調査中であるため詳しいことは言えませんが、少なくともシステム障害の類いではありません。今の時点で言えることは、完全に電波が途絶えたということです。海底ケーブルも例外ではありません」
記者の一人が手をあげた。
「なんでしょうか」
「日本政府では、この状況をどうとらえているのでしょうか。通信系統が全滅という未曾有の状態です。経済にも大打撃だと思いますが」
首相である八重山は、少し考えてこういった。
「経済活動に大きな影響が出ているのは重々承知しています。日本政府としての見解ではまだ仮説の段階ですが、ここが地球ではないという意見が出ています」
と。そして続けて、
「しかし、何があろうと政府は国民を守ります」
と。
その日、政府は午後の記者会見で「太陽の大きさや磁気の変化などの変化状況から、日本が地球でない他の惑星にある可能性が否定できない」ことを発表、同時に「資源配給法」が臨時国会で即可決、即日施行された。
日本にある資源を政府の管理下におき、流通を制限する法律である。食料、衣類、ガソリン、医薬品などの品目が対象であった。
さらに東日本大震災以降、多くが停止していた原子力発電所を再稼働させ、原油や天然ガス、石油などの化石燃料の消費を抑えた。
また、自衛隊や海保の航空機を四方八方へ飛ばし、陸地の捜索を始めたのだった。
-7月24日、日本・首相官邸-
「さて、ついに陸が見つかった訳だが、残念ながら地球のものではなかったのはもう報告が行っていると思う。・・・どうするべきか意見を出してほしい」
八重山がずいぶんやつれた顔で言う。この2日間は法令整備や記者会見などが続き、満足な食事もとれていないのだ。
「そうですね、やはり自衛隊や海保等による調査は必要と考えます。資源備蓄は十分量ない訳ですし、現地住民への外交交渉も必要でしょうから。我々はもっとこの世界のことを知る必要があります」
そう言うのは林 健三国土交通大臣だ。大臣たちのなかでは一番若いが、実力は相当なものがある。
「まてまて、自衛隊なんて派遣したら野党になんと言われるか分かったものじゃないぞ!海保を中心に調査団を派遣すべきだろう」
そう言って顔をしかめるのは澤田 祐一外務大臣だ。地位はあるが肝心なときに決断できない。トップには向いていない性格といわれている。
「しかし、新しい陸地にどんな生物がいるのか、わかっていません。航空機による観測では沿岸から少なくとも1500キロは森林が広がっているということですからずいぶん大きな森林ですし」
冷静に意見をのべる秋元 義尚防衛大臣。防衛大学校の出身であり、自衛隊のことをよく理解している。
「取り敢えず調査は必要であると私も思う。第一次調査は海自と陸自を中心として派遣する。露払いの意味もある。第二次からは第一次の時に設営した拠点を利用して官民合同の調査団を派遣して調査を継続することにしよう」
今後の日本の方針がひとまず決定したのであった。
-ラシュテルト王国・辺境領-
「では父上、異端者たちの粛正を行って来ます」
「ああ、気を付けろよ。より多くの異端者たちを殺せば、我が家の評価は上がる」
城門から出てくるのは騎竜に乗っている集団だ。きらびやかな鎧をつけ、全員が長い槍のような杖を持っている。
彼らの行く先は、どの国にも属していない、暗い森。
日本が上陸する予定の海岸に続く森だった。