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青春の後悔  作者: イトユウ
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最終話

長嶋は菊山に呼ばれ足早に向かった。


呼ばれた場所は捜査会議で使われる部屋で最近出来た部屋で、一昔のタバコの煙で白く濁ったドラマでよく見るような部屋とは真逆で、エアコン、空気清浄機が完備されており、正面には大型スクリーンが設置されており、数百人は座れるであろうテーブル付きの席が設置されており、映画館のような作りだ。


部屋に入ると大型スクリーン下で菊山が大型スクリーンを眺めていた。


積が数百席あるのでその分入り口からも遠い為、少し大きな声で「失礼します」と敬礼し入室した。


「長嶋君、忙しいだろうがわざわざ時間を割いてくれてありがとう」


菊山は礼を言うと大型スクリーンに一番近い席を指さし「座ってくれ」と促した。


「会議室も様変わりしただろう。私が長嶋君の年代の頃は、会議室はむさ苦しくてな。独身の刑事は一週間シャツを洗濯しないなんて当たり前だが、その臭いを煙草の臭いでカバーしていたな」


菊山の話しの流れがつかめず、なかなか返事もできなかった。


只の昔話をしに長嶋を呼んだわけではないだろう。


「前置きはいらないからさっさと本題を話してくれって顔をしているな」


「そんなことは」


長嶋は心を見透かされたような気になり、少ししどろもどろになった。


「構わんよ。ちょっと俺の心の声が出ちまったんだ。とにかく、本題に入ろう。まずは、今回の駒井運送にまつわる一連の事件の捜査ご苦労だった」


捜査の話しに移り、長嶋は背筋を伸ばし直した。


「そんな固くなる必要は無い。捜査中の方が力が抜けて良い面構えだったぞ」


どうもとっかかりが摑めない長嶋は「はい」としか返事が出来なかった。


「まあいいが、その事件に関わっていた暴力団だが、後日一斉摘発されることが決まった。これは長嶋君たちが事件を公に引っ張り出してくれたおかげだ」


長嶋は少し引っ掛かりを覚えた。


駒井運送にまつわる一連の事件、菊山の口からは解決というニュアンスは全く伝わってこないのである。


まだ、この事件は現在進行形であるといっているかのようである。


「その暴力団にの罪状は腐るほどあるから問題は無いと思うが、一つ新たな問題があってだな」


長嶋は眉間に皺を寄せ、何事か考えた。


新たな問題とは何か。


暴力団が駒井運送の他に大きな事件に関わっているのか。


しかし、もしそうであるならばとっくに公安である手塚や雅也も動いているはずだ。


しかし、そんな話は長嶋の耳には全く入ってこない。


昨日公安の一人である雅也と会ったばかりであり、何か起こっているとしたら、雅也が俺に隠していたということになるがそういう感じでもなかった。


「それはどういった問題でしょうか」


長嶋は意を決して問うた。


「ある大物政治家と繋がっていてだな、逮捕に踏み切れないかもしれんのだよ」


長嶋はため息をつくしかできなかった。


管理官の前にも関わらずため息が出てしまった。


「長嶋君も分かると思うが刑事の次は政治家となっては日本の威信に関わる」


菊山の言わんとしていることが分かった長嶋は勢い良く立ち上がり菊山に掴みかかろうとするかのような勢いで意見した。


「この期に及んでまた隠蔽ですか。圧力が上からかかったのか知りませんが、捜査中の管理官はそんな事で尻込みするような人ではありませんでした」


長嶋はもう後戻りは出来まいと尚も言い続けた。


「取り調べで駒井萌花の狂言誘拐には﨑山がそそのかしたようだとの情報が上がっていますが、父親の異変に気づいていなかったら駒井萌花も﨑山の言葉に耳を貸さなかったと思います。一人の学生をそこまで追い詰めたのは我々警察、そして日本という国の隠蔽体質ではないのですか。管理官も自分と同様の考えかと考えていましたが違うのですか」


すると、菊山は高らかに笑い出した。


長嶋はその姿に恐怖を感じた。


「まだ気付かんのか。工藤だ﨑山だと目の前の事ばかり気に取られている内は黙っていようと思ったが、滑稽だ。こんなことならお前を呼び出さずお前の言う隠蔽をすればよかった」


長嶋ははっとした。


長嶋の中で引っ掛かりを感じていたことの正体が。


工藤が何故ここまで大それたことを出来たのか。


そもそも何故工藤の娘の狂言誘拐だの、娘への脅しだのと工藤は考えたのか。


長嶋には工藤という人間とその行為とに大きい隔たりがあることに疑問を抱いていた。


しかし、この一連の事件のあまりの大きさに失念していたのである。


工藤という人間はそういうことをしでかすような人間ではないことは長嶋は一番よく分かっていた。


長嶋が致命的なミスをしてしまった時に親身になり叱咤激励をした工藤。


長嶋の中で今、大きな疑問となって現れた。


「ようやく何かに気づいてようだな。工藤という男はどこまでも真面目で、暴力団と関わるような人間ではない。自らの命を引き換えにしてでも暴力団には関わらず娘を助ける、それがあの男だ。しかしだな、その真面目さに大きな隙があったんだよ」


「まさか、工藤警部を脅迫するよう暴力団に肩入れし、これだけの事件を仕立てあげたのは…」


もう長嶋は菊山の目は見られなかった。


長嶋の目に映っていたのは卑しく微笑む菊山の口元だけであった。


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