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青春の後悔  作者: イトユウ
13/17

13

年が経つにつれ、日本の環境は日本人にとって住みにくい歓喜になりつつある。


経済は減退する一方で平均気温は年々右肩上がりで、沖縄は当然のことながら、関東でも例年四十度超えが当たり前の地域も出ており、環境問題の一つになっている。


各地で催されているスポーツの大会では熱中症対策が大会の結果と並んでニュースの話題となっていた。


そんな中、長嶋がいる警察署の会議室はエアコンが故障して久しく、捜査会議となると人が密集するため、蒸し風呂状態となっている。


その会議室では現在、駒井萌花誘拐事件の会議が行われているが、熱量は事件発生時と比べると明らかに落ち、今回の会議も成果無しの報告が大半を占め、会議の終わりには捜査本部の縮小が行われる旨の発表がなされた。


いつまでも一つの事件に大多数の刑事をさけないためであるが、この誘拐事件が狂言であったと管理官である菊山が把握したことが、大きな要因になったのは言うまでもなく、志半ばといった刑事が多数であった。


「捜査は縮小されるが、何も我々警察が諦めていいということはない。事件が解決するまで、この誘拐事件に携わる刑事は全力で臨んでほしい」


警部の工藤が額に汗を流しながら、会議の最後を締めて今回の捜査会議は終了となった。


この削減された中に長嶋の名前もあり、実質現在はなんの事件も担当していないことになる。


「長嶋さん、上に悟られたのでしょうか。急に捜査から外されるなんて有り得ないですよ」


現在をもってコンビを解消された崎山が不服そうな表情で長嶋に問いかけるも、長嶋は「そのうち分かるさ」と意に返さなかった。


しかし、長嶋の目線は一点に集中しており、その目を見た崎山は恐怖すら覚えた。


会議終了後、長嶋は萌花と健人を匿っている崎山の家に様子を見に行くことにした。


崎山は捜査から外されておらず、新たな相方と聞き込みに向かった。


といっても崎山も、狂言誘拐だと知っているため、心ここに在らずであろうが。


長嶋が向かっている途中、工藤から電話があり、健人が行方不明になったとの連絡を受けた。


実際、健人の両親に詳細は話しておらず、手塚が対応にあたっている。


手塚の事だから何か策があるのだろうと長嶋は意に返さなかった。


崎山の家の前に着くと、食欲をそそる臭いが崎山の家から漂ってきた。


中に入った長嶋は萌花と健人が食べているカレーライスを見て、唾を飲み込んでしまった。


ここ数日、捜査でまともなものを食べておらず、この緊迫した状態でも、長嶋の身体は通常に機能しているようだ。


「長嶋さん、カレー食べます?ちょっと作り過ぎちゃって」


萌花は微笑みながら長嶋に問うた。


長嶋は、両親が事件に関わりこの先なんの見通しのつかない、この状況下で笑みを絶やさない健気な萌花の姿に、思わず涙を流しそうになってしまった。


「仕事中だけも、頂いちゃおうかな」


手を合わせながら、萌花に微笑み返すと萌花の対面にいた健人が笑ったいたのでどうしたのか問うと「長嶋さんのそんな姿初めて見たからつい」と笑っていた。


長嶋はそんな健人の変化を嬉しく思っていた。


健人に初めてファンタジーランドで会った当初は無口でどんな事を考えているのか今一分からなかった。


刑事と相対すると、大半の人は健人のような態度をとってしまいがちだが、健人の場合は健人自身の性格のような気を長嶋はしていた。


萌花にカレーライスを盛り付けてもらった長嶋は食べようとすると、萌花の視線が気になり思わず緊張してしまった。


「そんなに見られると食べづらいな」


「自分で作った料理を、刑事さんに食べてもらうのなんて一生のうちに一度あるかないかだと思うんでどうしても気になっちゃって」


「そりゃあ、二度三度とあったら困るが、刑事も普通の人間だからな」


そう言うと長嶋はカレーライスを口に運んだ。


学生が作ったとは思えない程美味しく感じるカレーライスに長嶋は驚いていた。


「すごいな、美味しいよ。お母さんに教えてもらったのかな」


「教えてもらうも何も、市販のカレールーの箱の背面に作り方が載っているので、誰でも数回作ればスムーズに作れるようになりますよ。ただ、隠し味は内緒ですけど」


「その隠し味を聞いたところで俺には作れそうにないから聞かないでおこう。この、一連の事件が解決したらまた作ってくれるかな」


萌花は微笑みながら頷いた。


その萌花の笑顔を見た長嶋は、気を入れ直す一方まだ免許も取れない子供にこんな思いをさせている、この一連の事件の黒幕に更に強い憤りを覚えた。


そして、これから立ち向かうその黒幕との戦いに向け、景気を養った。


崎山の家を出た長嶋は手塚と待ち合わせをしている駒井運送の倉庫へ向かった。


その倉庫は数年前まで、宅配物の保管所もして機能していたが、老朽化の為、新たな倉庫の建設をしたため、現在は取り壊しを待つ廃屋となっている、


倉庫に向かう途中、長嶋はこの一連の事件の概要を頭の中で整理した。


頭の中をきれいにしておかないと、とてもじゃなきが手塚との話についていけない。


まずは、ファンタジーランドで萌花が行方不明になっているという通報があり、長嶋と崎山が駆けつけた。


そこには、健人と妹の理沙がファンタジーランドの事務所で待っていた。


先程も思っていたが、この時の健人は会話する意欲が無いのか、こちらからの質問に対して、全て棘のある言い方で返していた。


そして、監視カメラ等の確認や聞き込みを続けるも、何の情報も仕入れる事が出来なかった。


その時点で、誘拐の可能性が浮上した。


只の迷子ならば、何かしらの情報は残るものだが、皆無だったので、疑いは確信に近いものへと変わっていった。


その数日後、萌花の父である浩之が経営している会社の駒井運送へ脅迫状が届いた。


内容は、浩之の社長辞任。人質は娘の萌花という事であった。


身代金ではなく金銭が目的でないため、浩之個人に恨みのある人物の犯行との予測がたてられたが、駒井運送を調べていくうちに、様々な問題が発覚する。


まずは数十年前に起きていた金銭横領事件。


今回の誘拐事件との関連性を調べていると、金銭横領事件の捜査に多数の不可解な点があり、調べを進めると、犯人の息子である雅也に行き着いた。


その雅也の証言では、父親の犯行は濡れ衣であり、犯人は別にいるという事であった。


そしてその犯行には、暴力団が絡んでおり、更には駒井運送自身も事件に関与している疑いがあり、そして数人の刑事までもが関わっていた可能性が出てきた。


そして雅也に、何日かに分けて極秘に話を聞いているとある日、雅也が萌花と健人を連れてきた。


そして、今回の誘拐事件は狂言だと言い出したのだ。


雅也たちの話を聞いていた現場には公安が張り込んでおり、雅也達を帰らした後、公安の一人手塚と顔を合わせる。


その数日後、管理官の菊山に呼ばれ、行ってみると取調室には今回の一連の事件の黒幕の関係者の一人と思われる人物が事情聴取を受けていた。


そこで、再び対峙した長嶋と手塚は菊山の指示で極秘でこの一連の事件の真相を究明する任務を与えられた。


そしてその長嶋は今、駒井運送の敷地内に到着し、お客様専用駐車場と看板のある駐車場へ車を停め、手塚が待つ倉庫を探した。


事務所には何回も行っているためすんなり行けるが、初めて行く倉庫はそうもいかず、数十分探すこととなった。


やっとの事で倉庫にたどり着いたが、倉庫はシャッターが降りており、シャッター横にある従業員専用の入り口も鍵が掛かっているようで、開けることが出来ない。


手塚に電話をするも繋がらず、とりあえずシャッターの前で待つことにした。


改めて駒井運送の敷地を見ると広大な広さを誇り、捜査を始めてから、初めて開放感を味わった。


そして、長嶋の前の道では数台のトラックが行き来しており、何も知らないであろう社員達が汗水流して働いていた。


すると、長嶋のスマホが着信を告げた。


手塚からだと思いつつも、宛名を見ると非通知設定で着信されており、長嶋は不審に思った。


私用のスマホならば、悪戯だろうと無視できるが、これは警察署から支給されているスマホである。


長嶋は、何らかの明確な意図をもって非通知設定されていると思った。


しかし、いくら支給されたスマホとはいえ、無視することもできるが、呼び出した本人である手塚と連絡がとれない今、手塚との関係のある人物からの着信という可能性もあった。


そして、公安関係の刑事ならば非通知で掛けてくることも考えられた。


恐る恐る出てみると全く予想だにしない相手からであった。


「そこから逃げて!」


健人は電話口で必死に叫んでいた。


いきなりの事で混乱した長嶋であったが、健人の言う通り、急いで駐車場に停めてある車へと向かった。


車に乗り込み、駒井運送を出た長嶋は、スマホのハンズフリー機能を利用して健人に連絡をとろうと崎山の家に電話をいれるも誰も出ない。


留守番電話の設定をしていないのか永遠と呼び出し音が鳴っているだけである。


不審に思った長嶋は崎山の家に向かうことにした。


その時、車のサイドミラーに長嶋の二台後ろの車が写っていたが、何かが引っ掛かる。


崎山の家まで残り数百メートルというところまで来た長嶋は先程の車が今度は三台後ろにいるのを確認し、不審に思い崎山の家を通り過ぎた。


少し車を走らせながら考えていると、引っ掛かりの正体を理解できた。


駒井運送に向かう道中でも、例の車は長嶋の視界に入るところを走っていたのである。


一般の人間では気付かないかもしれないが、何年も刑事をやっている長嶋は危険を察知する能力が身に付いている。


そして、駒井運送を取り巻く今の状況を考えると、おいそれと安心出来るものではない。


こういう追跡されている可能性がある時は、追跡車を巻こうとするものだが、長嶋は少し様子をみることにした。


数台空けて追跡するあたり、素人の追跡ではない。


巻こうとすると、長嶋が気付いた事が伝わってしまい、追跡を止めるか別の車に変わり、長嶋自身が追跡の存在を見失うってしまう可能性がある。


そして、追跡車の正体は分からなくなってしまう。


長嶋は取り敢えず警察署に車を向かわせた。


手塚と連絡がとれない今、長嶋は主だった目的が無くなり、一度考えを整理する時間が必要であり、さらに手塚と連絡をとる手段を考えなければならない。


そして、何よりも萌花と健人の安否が気掛かりだ。


電話口での健人の声は切羽詰まったものを感じ、危険を顧みず崎山の家に行った方が良かったのかもしれないかと考えてしまう。


しかし、冷静に考えた時、健人の電話から数十分経った状況で何が出来ただろうかと考えるも、ゼロに等しいことに思い至ってしまう。


萌花と健人の身に何かあれば、すでに崎山の家には二人の姿は無いであろう。


警察署ご目の前に近づいてきた時、長嶋のスマホが着信を告げた。


再びハンズフリーで電話に出ると相手は手塚であった。


「例の子供達は何処へ行った」


手塚は繋がるなりそう切り出した。


長嶋が健人から逃げるよう電話があった事を伝え、何故駒井運送の待ち合わせ場所にいなかったのか問うと「お前も気付いているはずだ」と電話口でも分かるような緊迫した声で言った。


「どうやら、俺達は何者かに監視されているようだ。恐らくこの電話も盗聴されている」


長嶋は咄嗟に数台後ろに今尚走っている例の車の事を思い肯定意味も含め相槌を打った。


手塚の話によると、手塚は駒井運送の待ち合わせ場所である倉庫に行く途中で、監視に気付き駒井運送を通り過ぎ、適当に車を走らせているという事であった。


あまり早くに連絡すると、実際に盗聴されていた場合に、長嶋の居場所をみすみす教える事になってしまうと警戒し、今に至ったという事だ。


長嶋は、長嶋の事を少しでも気遣っての行動に手塚の意外な一面を見た気がした。


そんな手塚の事を少しは信じても良いかと思うが、この電話は盗聴されている恐れがあるため、健人と萌花の事は迂闊に喋れない。


そして、健人と萌花の身の安全の事を考えたら、少しでも早く手塚と合流して今後の対策を練った方が良いと考え、警察署で待ち合わせる事にした。


流石に、どんな人物が長嶋達を監視しているか未だに分からないが、警察署にまでついてくることは無いだろうとの考えからだ。


目の前に聳え立つ警察署のビルを横目に駐車場に車を乗り入れた長嶋は急ぎ足で管理事務所に行き、空いている会議室を抑えた。


手塚以外の人物を決して通さないようにとの忠告を忘れずに。


その数十分後会議室で待っていた長嶋の基に手塚が現れた。


「懐かしいな。この階に来るのは入りたての頃の研修以来だ」


「そうでしょうね。逆にこっちは嫌という程いますけどね」


雑談から始まった会話はすぐに本題へと入っていった。


長嶋が健人からの電話の事や萌花の身の安全を確認できていない事を話すと手塚は舌打ちをし、「ありえない」とぼやいた。


「もし、その二人の身に何かが起きたらこれは日本警察全体の問題になってくる。何せ警察署内に犯罪に加担している人間がいるっていうんだからな。そのため、組織を全く組めない。捜査員がもう二、三人いたら密かに子供達の身の安全を守れただろうに」


それは長嶋も思っていた事だ。


元を正せばこの一連の事件に刑事が関わっている事が発覚してからは、捜査という捜査は出来ず、謎の追跡者から追われる始末。


真実が闇に葬り去られそうになっているにもかかわらず捜査はたったの二人というこの状況に事の重大さが表れている。


「色々言っても始まりませんから、まずは子供達の安否を確認する手段を探りましょう」



「そうだな。実はその事については俺に一つの案がある。もう一人の仲間である駒井運送に潜入している捜査員に細かい指示はしてある」


「それは雅也の事ですよね。あいつを使うのは結構ですが、子供達の居所は知らないと思いますが」


「お前の旧友だか何だか知らんが、今は一人の公安だ。そこをなんとかするのが公安たる所以さ」


長嶋が煮え切らない表情をしていると、扉をノックする音がした後「A0023」と何処かで聞き覚えのある声がした。


「噂をすれば」


と手塚は意地悪く微笑むと扉を開けその人物を中に招き入れた。


「やっぱり雅也か」


雅也は長嶋に軽く手を挙げてみせると、逆の手に持っていた封筒を手塚に渡した。


手塚は受け取った封筒の中身を出し見ると目を見開いて数秒すると、何か腑に落ちたような顔をし更に雅也に指示を出した。


「何が分かったんですか。俺にも分かるように説明して下さい」


長嶋が意見すると手塚は封筒を長嶋に手渡しし「自分で確認しろ。お前にとっては胸が痛い思いをするだろうが」と言い雅也と共に部屋を出て行った。


長嶋は一度落ち着いて座り封筒を開け中身を取り出すと一番にある拡大写真が目に飛び込んできた。


そこにいたのは、先日までコンビを組んでいた﨑山と長嶋の上司である工藤、そして駒井運送の先代社長である和義であり更に共に写っているのは、長嶋も知っている指定暴力団幹部の姿が写っていた。


何の話をしているのか。


いつどこで会っているのか。


捜査の一環ではないか。


長嶋は混乱していた。


長嶋も刑事人生を何年間も経験してきており、多少の事では動じない精神を持っていたつもりであったが、長嶋も一人の人間なのであった。


といってもこれだけの写真を見せられて動揺しない人間などいないであろうが。


長嶋は混乱する頭の中で今までの事件に関わる出来事を反芻した。


すると依然起きていた工藤警部の周辺で起きていた誘拐事件の事が思い出された。


工藤警部の娘が誘拐されてと思われていたが、数年前に既に工藤警部の娘は事故死していた。


しかし、脅迫状には工藤警部の娘のものと思われる毛髪等が入っており、DNA鑑定すると工藤警部の娘のものに間違いないと結論付けられた。


警察としてはもう事件は終ってしまい、肝心な誘拐被害者である工藤警部の娘が数年前に亡くなっていることから、捜査本部を縮小し今では本部は閉鎖となり、この事件の真相はいまだに闇の中。


長嶋はその事件と今回の一連の事件を結びつけずにはいられなかった。


そして、気付いてしまったのである。工藤警部の娘が事故死した年と、駒井運送金銭横領事件が発覚した年が同年であることに。

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