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青春の後悔  作者: イトユウ
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長嶋は雅也の話を聞き終わると険しい表情で何度か頷き「話は何となく分かった」と言った。


長嶋の本心では、雅也のこの話に大笑いし「ドラマや小説の読みすぎだ」と言いたいところだが、この事件の謎や駒井運送の歴史を振り返ると笑ってもいられない。


「しかし、それと萌花ちゃんの誘拐とどう繋がるんだ。そして、なぜその萌花ちゃんがここにいるのか分からないんだが」


雅也が答えようとすると萌花が「私から話をさせて下さい」と説明を始めた。


「結論から言うと、この言葉が正しいか分からないですけど、狂言誘拐でした。そして、ここにいる三人だけで行なったことです」


長嶋はその告白に笑ってしまった。


「すると、俺達警察は君達の一般の人間三人にまんまと騙されたってわけか」


萌花は頷くと雅也が「表向きはな」と言い、この計画の核となる部分を話始めた。


「萌花ちゃんが誘拐されたとなるとその父親である駒井運送の社長の周辺も調べられるだろう。そうすると、駒井運送と暴力団の繋がりや、金銭横領事件の不可思議な逮捕にも再調査をされる可能性も出てくる。そして、その金銭横領事件に関わった当時の刑事達も何かしらの動きを見せるだろうと思ったんだ」


崎山は何か思いついたかのように背筋を張るように反応すると、長嶋に耳打ちした。


すると長嶋は少し目を見開いた後「確かに」と言い、雅也に話した。


「正直、この話を聞いて目の前に狂言誘拐という犯罪を犯している人間がいるのにも関わらず逮捕や連絡もせずに話をしているというこの状況、バレたら即刻クビだ。だから言うが、実はこの事件を調査している人間達が俺達以外にもう一ついる。公安というんだが、名前くらいは聞いた事があるだろう」


「ドラマや漫画では聞いたり読んだらした事があるが」


「実は、その公安に接触してくれと上司から言われていてな。正直、公安は俺も詳しい事は分かっていない、謎の多い部署でな。捜査の手口もどんなことをしているのか分からない。こういう企業関連の事件にはまず動くんだが、何の役職も持っていない俺に公安と俺達との橋渡し役をしろだなんて異例中の異例だった」


「ということは、その上司は公安の動きを自分だけ知ろうとして、独断で長嶋に指示を出したってことか」


「恐らくそうだろうな。そしてその上司には過去に少し黒い影がある」


雅也を始めとする三人は不思議な顔をすると雅也が「暗い影とは」と問うた。


長嶋は以前に崎山に話した工藤警部の子供の誘拐事件のことを細かく雅也達にも話した。


「素人にも不可解だと思うような話だな。なぜ、警察は簡単に捜査を辞めちまったんだ」


「それが、最近分かったことなんだが、まだその捜査は裏で続いていたんだ。そしてその捜査をしているのは公安だ」


「今一つ分からないんだが、そんな昔の誘拐事件をこうも長い間捜査し続けるものなのか」


「時と場合によるさ。以前は時効があったからその時効が目安となっていたから分かりやすかったが、そうでなければその事件に関連する事件が起きた場合に捜査を再びする事がある」


「ということは、その上司は最近起きた事件と何らかの形で関わっているということか」


「はっきり俺の上司がってことは言えないが、その子供が誘拐された事件が今回の誘拐事件と何らかの関わりがあると公安が判断したということだ」


雅也は腕を組み考えるも、素人の頭では整理できるはずもなかった。


すると、健人が雅也に「やっぱり関係があったんですよ」と詰め寄った。


「何の関係もなければ警察なんて動きません。それは自分でも分かります。萌花のお父さんの会社には予想以上の何かがあるのかもしれないですね」


「健人くんの言う通りかもしれない」


長嶋は健人の意見に同意すると何事か考え込んだ後、少し時間が欲しいと次に会う日を提案した。


「それまでは、萌花ちゃんを外に出すわけにはいかない。前山に匿ってもらいたいんだが」


崎山は驚きのあまり口に運んでいたコーヒーを吹き出してしまいそうになり、咳き込んだ。


「長嶋さん、何を言い出すんですか。長嶋さんが言っていることは犯罪の共犯者になるということですよ」


「分かってる。だけど、企業と暴力団の犯罪に警察が加担していた過去があり、そして今もなお継続している可能性が高いこの状況で、警察の信念だなルールだの気にしてはいられない」


崎山は納得したのかしていないのか黙ってしまった。


「一つはっきりした事があるんだが、いま君達が言っていた事が事実ならば、日本中、いや世界中を巻き込んだ大スキャンダルに発展するするのは間違いない。日本警察や日本企業の将来を大きく変えることになる。その覚悟をしてほしいんだ」


雅也を始めとする三人は神妙な面持ちで頷いた。


「もしかしたら君達三人の顔や個人情報は週刊誌やインターネットで世界中に知れ渡る可能性が高い。プライバシー漏洩を取り締まる警察がこういうスキャンダルを起したとなれば取り締まる効力なんて無いに等しい。君達の将来にも影響する。その事を考えてまた指定した日に会おう」


先に三人が席を立ちファマレスから出て行った。


緊張のせいか萌花はコーヒーを一口しか飲んでいないようで健人も同様であった。


「崎山君、三人の指紋を取ることと、萌花ちゃんを頼む。後で連絡する」


崎山は指紋を採取するキットのようなもので三人のコーヒーカップから指紋を取った。


「萌花ちゃんの事は分かりましたが、長嶋さんはどうするのですか」


「俺はそこのカウンターで新聞を読んでいるふりをしている同僚、いや公安に話がある」


崎山は「えっ」と言うと固まってしまった。


長嶋がカウンター席にいる人物の隣に座ると睨むような目で隣の人物を見た。


「どういうつもりですか。盗み聞きとは、公安の専売特許みたいですが」


「盗み聞きされるような声で話す方が悪い。あんたも刑事なら考えた方がいい。あれだけの内容の話を普通の声で、しかもこういう開けた場所で話すなんだ狂気の沙汰じゃない」


「それはそれは、俺の気配りが足りなかったようで。しかし、怪しい人間がいたら、こっちの隙を見せて様子を伺うのは我々の常套手段なんですがね」


その人物は長嶋を睨むと鼻で笑い「そんな事はどうでもいい」として続けた。


「今、店長に協力を仰いでこの店を臨時休業にした。だから普通に話すが、お前はこれからどうするつもりだ」


「公安ってのは何でも有りだな。休業時間分の売り上げても渡すんですか」


「そんな事はどうでもいいから質問に答えろ」


「質問に答える前に、逆にあなたの意見を聞きたいですね」


「俺の意見なんかお前に言っても何にもならない。お前のこれからの行動次第では協力する準備は整っている」


「どういう事です」


「言葉の通りだ。前から公安ではあの女の子の父親の会社である駒井運送の過去の事件を追っていた。そしてある程度の黒幕も分かっている」


「金銭横領事件ですね。ではなぜ、その黒幕に任意同行や逮捕までいかないんですか」


「今のお前と一緒だ。少し泳がせていたんだ。駒井運送とある刑事をな」


「そのある刑事とはおそらく、俺に関係のある刑事なんじゃないですか」


公安なら刑事は少し目を見開き長嶋の目を見ると「驚いたな」として続けた。


「どこでその情報を」


「情報を仕入れたとかではなく、自分自身の考えですよ。そしてその刑事は金銭横領事件以外にも身内が絡んだ事件に巻き込まれている。いや、事件を自ら起こしている」


公安の刑事が何度か頷いた。


「少しはやるようだな」


「公安の足元にも及びませんがね」


「そうなると、更にお前を自由に動かしておくわけにはいかない。もう一度聞くがお前はこれからどうするつもりだ」


「俺は、刑事を辞める覚悟で公安が泳がしているというその刑事の周辺を洗います。自分の命を引き換えにする覚悟です」


「やめておけと言いたいところだが、何を言っても無駄なようだな。俺から一つ提案がある。俺達公安と組め。そうした方がお前も影で動きやすくなるのは分かるだろう」


「ありがたい申し出ですが、断らせてもらいますよ。組織で動くといつどこで横槍が入るか分かったものじゃない」


「公安に協力しなければ、横槍が入るどころじゃないぞ。ここで断われば公安は容赦ないぞ」


「自由に動かせ情報だけ吸い上げ、黒幕を雁字搦めにしたら俺を放り出す。そんなところでしょう。そんなの御免です」


「やはりお前はかなり骨のある刑事なようだな。しかし、組織の一人としては向いていないようだな」


「褒めても公安には協力しませんよ」


公安の刑事は鼻で笑うと電子タバコのスイッチを入れ始めた。


「 日本の社会はみるみるうちに発展していく。このタバコだったそうだ。数年前まで充電式のタバコを吸うことになるなんて想像すらしていなかった。パソコンやスマホも同様だ。色々なものが発展していく中で、犯罪もそれに比例するように発展していく。だけど、そんな事を許してはいけない。例の金銭横領事件の黒幕もその数年前に不可解な事件で警察が絡んでいる。そこで中途半端な捜査をするから犯罪が大きくなってしまうんだ。俺達公安はそんな事は許さない。そのためには同僚の刑事であろうと邪魔する奴は排除する」


「いかにも公安らしいですね。その心意気はかいますが、一刑事としてではなく一人の人間としてこの数十年にも及ぶ事件は早急に解決しなければならない。俺はそう思いますよ」


「分かった。それならば容赦しないぞ。そして、最後に一つ忠告しておく。善と悪をはき違えるな。自分の善や正義のために関係の無いまわりの人間を陥れるのは完全な悪だ。覚えておく事だな」


公安の刑事は席を立つと一人の客もいない静かな店内を出て行った。


長嶋はその背中を神妙な面持ちで見つめていたのであった。

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