第87話 墓参り
サリアが少し遠くで地面に逆さにめり込んでいるメタトロンを見ながらそういった。
が、さすがに自分で呼んでおいてこの仕打ちは可哀想だと思ったのか両足を掴んでグイッ抜いてあげた。
「やっぱり胸が好きなんですか!? あんな脂肪の塊がいいんですか!?」
そう言いながらレンの腕の中で騒いでいるのはマインである。
「何なんですか、私があいつの胸を削ぎとって私の胸に付けたらそれでいいのですか!?」
言っていることがすごく怖い気がするが、まあ、告白されたばかりで彼氏のあんな腑抜けた姿を見てしまったら仕方ないと思う。
そしてその怖いことを聞いて、「良かった、いつものマインだ」と思っているレンと読者はマイン病にかかっているので病院に行くことをおすすめする。
「ま、まあまあ落ち着こう」
「落ち着いてられないですよ!」
「大体まだ10歳なんだからあと少ししたら大きくなると思うぞ」
「そうですかね…」
さあ、マインが落ち着いたところで説明タイムである。と言ってもサリアが状況を説明するだけなんだよね。
そして説明が終わったのだが。
「どうして今日はサーリアが出てこないんだ?」
そう全くサーリアが出てこない。メタトロンとレンの戦闘なんていう最高の餌があるのに全くよってきていないのだ。
「姉様なら墓参りだよ」
「墓参り?」「『はかまいり』ですか?」
どうして神様がそんなことをするのかわからないレンと、それが何かがわからないマインが同時に疑問をあげた。
「ああマインは知らないんだね。墓参りっていうのは死んだ人の遺体や遺物を埋めて作ったお墓を手入れすることだよ」
「それをどうしてサーリアがやっているんだ?」
「姉様が人間を好きになった原因を作った人だからだよ」
「人なのか?」
「そう、それもスキルを1つも持たない人間」
スキルを1つも持たない。それはつまりレンが元いた世界のようにスキルが存在しない世界の住人だと言うことである。サーリアが担当するあの世界にスキル無しの人間など存在しないからだ。
「何なら見に行ってみるかい?」
「行ってもいいのか?」
さすがのレンもここばかりは気を使うみたいだな。
「大丈夫だよ」
というわけでサーリアの所へ向かうことになった。
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そこは少し広い草原のようなところでその草原の端は断崖絶壁で下には分厚い雲海が見える。
その草原の中央は少し盛り上がっており、剣が刺さっていた。
その剣は刃の長さが1m半強、幅が20センチほどの長剣だった。材質は鉄、だがその剣は真っ赤に染まっていた。剣を真っ赤に染めたもの。それは血だ。刃が赤くなるまでの血、一体どれだけの生き物を斬ればそこまで赤くなるのか。
そして赤い剣の前にサーリアが跪き、両手を合わせ祈っているような姿勢を取って目を閉じていた。
「姉様、相変わらずここには毎年この日に来ているんだね」
サリアの呼び掛けを聞いてサーリアが立ち上がり、こちらに歩いてきた。
「当たり前ですよ、あの人の命日ですからね」
レンとマイン、メタトロンはそんなサーリアの様子に言葉を失っていた。あの、剣を持たしたら鬼強くて戦うのが大好きなサーリアが1つの墓の前で冥福を祈っていたのだ。
「その人は剣士だったのか?」
「ええ、名はレオ・クリムゾン。私を最初に倒した者です」
「倒したってことは戦ったのか?」
「はい、それがここです。そしてあの剣が彼が使っていた剣です」
レンが辺りを見渡しながらサーリアに聞く。
「ここでそいつが死んだのか?」
「いえ、彼が死んだのは別の場所です。ここは彼と私が戦い、私が倒れた場所です」
たしかによく見てみると所々に削られたような跡がありその部分だけ草が凹んでいる。
おそらくこの場所で2人が戦ったあと、この草花は生えてきたのであろう。
「あなたが普通の人間ごときに殺られるのですか?」
「普通ではないですよ。彼は15歳くらいからずっと剣を振り続けたみたいですから」
「15から振っていたのか?」
俺と一緒じゃないか。とかレンが思っているのだが全然違う。
レンは15歳に異世界転移して剣を持たざるを得ない状況に陥ったわけで自分の意思で剣を持ったレオとは違うのである。
ということをメシアが言うと。
「いや、俺だって日本にいた頃剣を握っていたぞ」
うん、それは厨二病の延長線上だよね。何も強くなってないじゃないか。
「それにしても姉様はあの時からレオに惚れっぱなしだからな」
サリアがマインの時みたいなニヤニヤ笑いを顔に貼り付けながらサーリアをからかったが
「ええ、私はレオを愛しています。500年の間、毎年ここに来るくらいには」
「500年?」
「ええ、レオが死んだのは約500年前です」
「いくつで死んだんだ?」
「70歳、戦死でした。剣を持って戦って死ねたんです。あの人も本望だったそうです」
サーリアが地面に刺さった剣を見ながらそう言った。
第1話から第10話まで改稿しました。