第78話 電話
「さて、この国は見ての通り俺達が乗っ取った、というわけで君達には死ぬか味方になるか選んでくれ。賢い選択を期待しているよ」
とかかっこいいことを言っていたのにメシアから連絡が来た。なんでも収納の魔法陣を出してほしいとのことらしい。
全く、メシアさんは空気を読みませんなー。
しかしメシアさんのアドバイスを無視して後で嫌な目に遭うのは避けたいので魔法陣を出す。すると中からスマホをくわえたハクを抱えたミイが出てきた。
ハクがくわえているスマホは着信のメロディーを流していた。
「あれ? なんでなっているんだ?」
急いでハクからスマホを受け取り、電話に出る。
『ヤホー、クレナイさん。お久しぶり、というかついさっきあったね』
「いや、なんでお前が出んの?」
これってサーリアの番号だよな。なんで魔神が出てくるんだよ。
『え? ちゃんとサリアって表示されてない?』
「あ、そういえば最初はサリアってなってたような」
『じゃああってんじゃん』
「いや、あの女神の名前はサリアじゃなくてサーリアだよな。俺が気を利かしてサーリアに変えておいたぞ」
するとテーブルを叩くようなバンバンという音が聞こえる。
『私の名前がサリアなんだよ! 私があなたと話すために連絡先を追加してもらったんだよ』
なんと、あの魔神の名前はサリアだった。というか
「名前似てるな」
『当たり前だよ、私達は姉妹なんだから』
なるほど、そういえばそんなことも言っていたような気がする。
「というかお前らって姉妹なのに仲良くないのか? 女神もお前のことを嫌っていたみたいだし、姉が死んでも何ともないのか?」
まるで電話越しにも聞こえてきそうなくらい、というか実際に聞こえる音量でサリアが首を振る。
『いやいや、さすがに姉様が死んだら悲しむよ』
「…まさか生きているのか?」
『そうだよ。姉様が死ぬ前に私が回収したからね。だから穴が空いていないでしょ?』
そう言われて周りを見渡してみると女神が剣を使って開けた穴以外の深い穴は見当たらない。だから死んだ時に出る光の柱がなかったのか。
『クレナイさんの前に姿を見せたのも回収するためだしね』
「なら今あいつは何をしているんだ?」
『戦闘中の変なテンションと余りのショックで忘れていた、剣が折られた事実を思い出して泣いているよ』
「そんなに大事だったのか?」
『私達女神は生まれた時に司るものを決めるんだけど姉様は剣術を選んだんだよ。そして生まれてすぐに貰った剣に三日三晩悩んで付けた名前が「エクスカリバー」ってわけ。そしてただの剣だったエクスカリバーを片手に今まで生きてきたわけ』
「え、それじゃあ…」
『そして数万年を共にした愛剣が折られて「直って、直ってよぉー、ぐすぐす」的な感じで泣きじゃくりながらハンマーでカンカンやってるわけでーす』
「なんか可哀想なのに可愛いな」
『だよね! 姉様は可愛いよね!少し昔、姉様への思いを隠さなくなった頃から姉様がぶっきらぼうな口調になったけど、私を意識しちゃっているとこが可愛いよね!』
サーリアがサリアを面倒くさがってたわけがわかった気がする、というかわかった。
「サーリアは鍛冶出来ないのか?」
『まあ、剣の神だからね、作るのは専門外なんだよ』
なんて使えないやつなんだ。ったく、仕方ないやつだな。
「俺が直すからそっちに送ってくれ」
『あ、そうなるの? まあ、私的にはもう少し楽しみたいんだけどさすがに可哀想だからね』
レンの体がアオイ達の視界から消える。
そしてレンが転移したのは1軒のログハウスの前だった。
ログハウスの中は2つのベッドとキッチン、それにソファとテーブルが置いてあり、テーブルの上にはお菓子と本が乗っていて、圧倒的な生活感を醸し出している。
そして女神姉妹はログハウスの庭にいた。サーリアは庭においてある炉の前で金床の上に愛剣を乗せ、ハンマーでカンカンやっていた。それも涙を流しながら。そしてサリアはそんな姉を見ながらBBQをしていた。
とりあえずスマホをしまって、サリアに近づく。
「いや、姉がこんな状態になってるんだからBBQするのやめてやりなよ」
「え?」
サリアがどこからか取り出した本をペラペラとめくる。
「この本には『人を招く時にはBBQをして肉を振る舞いましょう』って書いてあるんだけど」
「いや、それネタだよな。本気でやってるんだったら正気を疑うぞ」
「あ、バレた? 確かにこれはネタだけどね、大変面白いリアクションをありがとう。それと」
「勝手に君達の基準で私達を計らないでくれるかな、ニンゲン」
サリアのセリフを聞いてレンが少しの間固まる。
だが
「いや、口の周りをタレでベトベトにしながら肉を頬張っている奴に言われてもシリアス感がないんだよなぁ」
そう、サリアが焼肉のタレを口につけながら串に刺した肉を頬張っているせいでセリフが台無しである。
「というかクレナイさんも食べない?」
「美味しいのか? 黒焦げのステーキは嫌だぞ」
「黒焦げではないよ。ほら食べてみなよ」
サリアが息をふうふうと吹きかけて冷ました肉をレンに優しく食べさせる。
「どう? 美味しいでしょ?」
首を少し傾けて近い位置からサリアが聞いてくる。確かに肉の見た目は完璧で、サリアの見た目も完璧だが、
「すっごい不味い」
サリアの顔が驚愕の色に染まる、ということはなくサリアの口からは代わりに「やっぱり…」という言葉が漏れた。
「何が『やっぱり』だよ!黒焦げになってなくて丁度いい焼き加減かな? って思ったら最高に不味いタレがかかってたな!」
「いや、タレは悪くないと思うよ。日本にある美味しい焼肉屋のタレを20軒ほど混ぜたタレだから。おそらく炭が悪いんだと思うよ」
自分の作ったタレが美味しいと信じて全く疑わないサリアの目を見てレンの口から自然とため息が漏れる。
「ま──」
今日からまた火、木、日曜日に投稿します。