第74話 王都壊滅
「さてあと少しで王都に着く。騎士以外は出来るだけ襲わないでくれ」
マインが御者台から身を乗り出して聞いてくる。危ないな。
「どうして殺してはいけないのですか?」
「人質として使いたいから」
今回の件でわかったのだがさすがに数が多いと殲滅するのがめんどくさい。
メシア)王都に着いたら王城を破壊することをおすすめします。
何故だ? 王様が死んでしまったら意味が無いだろう?
メシア)女神が守っているので問題ありません。
ああ、そういえば勇者が瀕死になったらこっちに来るんだっけ。
それなら既に女神が来ていても不思議ではないか。
なら吹っ飛ばしても問題は無いな。
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フレード王国王都
以前、描写がなかったのでこの際にしてしまおう。
王都の広さは北海道くらいの大きさで、中心に王城や貴族の屋敷があり、それを取り囲むように商店が立ち並んでいる。冒険者ギルドや魔術ギルドもここにある。
そして一番外側には住家があり、入り組んだ路地裏の奥にはスラム街がある。
王都へは東西南北にある関所から入ることが出来、王城の入口は南側にある。
王城のとても大きく、この街の住人が全員入っても余裕があるらしい。
この街の家はクリーム色の壁に赤い屋根で統一されており、貴族が住む屋敷だけは屋根が黒く塗られている。
王城の屋根は大理石のようなもので覆われており少々の魔法なら耐えることが出来る。壁にも対魔法用の素材が使われており、例え攻められたとしても絶対に落ちないと言われている。
そんな王城の上を飛んでいる者がいる──レンだ。
王都に着いたレンはアオイに頼み、自分を抱えて飛んでもらったのだ。
「確かに俺は抱えて飛んでくれとは言ったが」
アオイにしっかりと抱きつかれて背中に顔を押し付けられているレンがアオイに聞いた。
「ここまでする必要があったのか? それに随分と鼻息が荒いけど大丈夫か? 辛いなら肩を掴んで飛んでもいいぞ」
するとアオイが背中で首を横に振りながら答えてくれた。少しくすぐったいな。
「全然大丈夫です。むしろ役得です」
うん、よくわからない。
とりあえずアオイのことは頭から追い出すのは俺には無理だったので頭の片隅に移動させて、王城を壊す準備を始める。
人間が作ったものは人間が壊すことが出来る。
いくら対魔法用の素材が使われていても所詮は耐火、耐水、耐風、対電、耐刃、などの寄せ集めに過ぎない。
普通ならそれで十分強いのだが俺の前ではさほど問題にはならない。
ただ周りの貴族の家に被害が及ばないように結界のようなもので覆わなければいけないが、問題らしい問題はそれだけだ。
「どの魔法を使うのですか…」
アオイの疑問に答えてもいいのだが、百聞は一見に如かず、ということでやってみよう。
「王城にいる者達、そして王よ」
まずは口上から入る。確か技の名前を言うのは相手をビビらせるためでもあるとか聞いたことがあるし、やってみるのもいいだろう。
「この国はとても平和で民は楽しく暮らしていた。良き王だったのだろう」
口調がおかしいって?
はっはっはっ、せっかく魔王になったのだからこんなことをやってみたいじゃん。
「だが俺達の邪魔をした」
主に女神達のせいだが、そこに女神がいて聞いているのだから間違いはないだろう。
「話せばわかり合えるなどと甘いことは俺は言わない」
話してもわからない奴《女神》に会ったからな。
「だからまあ、なんだ、ちょっと俺の女神に対する復讐に付き合ってくれ」
と、言うわけで攻撃開始ー。
「さあ今回も楽しく殺そう」
まずは騎士達にも使った火の矢を飛ばす。爆発力を上げているが少し傷がついたり罅が入ったりするくらいであまりダメージが入っていない。
なので畑の上を飛ばしていた太陽を4つほど作り城の城壁に向かって撃つ。
さすがの対魔法城壁もサッカーボール大の太陽が飛んでくることは予想していなかったのか1つが爆発しただけで城壁は破壊され塔も1つ倒れた。その後も追加でいくつか作り王城を完全に破壊した。
「つもりだったんだけどな」
「綺麗に丸く残りましたね…」
城の1階にある広間。それだけが光の壁に守られて残っていた。
まあ、俺も王城以外の建物に被害を与えないために結界を作り、守っていたんだ、女神も似たようなことができるのは不思議でもなんでもない。
ただ──
「あの剣、すごく強そうだな」
女神が持っているのは人形ではなく光り輝く黄金の剣だ。
女神の持っている剣は装飾も何も無いただの両刃で幅が20センチメートル、長さが2メートル超の長剣だ。
それを女神は片手で持ち、剣先を地面に付け、線を描きながら俺の元へとやって来た。
「さて、すごい行動力ですね。約1週間の間に騎士達を片付け、勇者を斬り伏せ、この王城まで落としたのですから」
女神が賞賛してくる。しかしその間にも女神は自分の周囲に火の玉や光の矢、果てには予想も付かない黒い玉を浮かべている。
「今はその口調なんだな」
「ええ、何せ沢山の観客がいるのですから、あの子もいませんしね」
そして女神が長剣の先を俺に向けて言い切る。
「観客達に見せてあげなくてはいけないのです。私のような理想の女神がこの世界の均衡を崩す、害悪を排除する戦いを」