第69話 魔王
サーリアが人形に喋らせずに自分の口で喋っていた。
「えーと、何でまたここに呼ばれたんだ?」
「意外と冷静なのですね」
そりゃあ異世界転移したり人斬りにあったりしたからな。こんなことぐらいでは驚かないんだよな。
「ここに呼ばれた心当たりはありますか?」
「全く無い」
少し街を危険に晒したり、人斬りを仲間にしたりとかしてたけど全く無いな。
「ということはアオイはあなたに何も言っていなかったようですね」
「何のことだ?」
サーリアがいきなり独り言を言い出した。アオイから何か聞いていたっけな?
「あの子なら私達の目を盗んで話すくらいのことは出来そうなのですが。いや、もしかしてあの時の──」
「だから何の話をしているんだよ」
少し声を荒らげてしまった。だが僕は怒っている訳では無い。何かこの女神から威圧感を感じているのだ。
異世界転移の時には何も感じていなかったのに何で今感じているんだ?
「ああ、すいません。忘れてました」
そう言ってサーリアは指を鳴らした。
すると視界が一瞬ぼやけ、瞬きの後には僕は黒い部屋にいた。
「ヤッホー、クレナイさん」
「お前は相変わらずテンションが高いな。もう少し声のボリュームを下げたりできないないのか」
「出来ません。それに姉様も言葉戻っているよ」
「…面倒臭いからこれでいく」
「さすがだね」
サーリアと角が生えた女性が話をしているが、話に僕がついていけていない。
「ちょっと待ってくれ。そいつは誰なんだ? それに姉様ってどういう事だ?」
「ああ、そういえば記憶を消していたんだっけ」
角付きの女性が僕の額に手を当てる。
「ん、これで記憶が戻ったはずだけど。…聞こえてないみたいだね」
女性に触られた部分から映像が頭に流れ込んできた。すごく痛い。
「思い出した。あの時の魔神か」
「正解。あの時の魔神です」
しかし魔神が女神の妹なのは何故なんだ?
「そして私が魔王を作ってる張本人だよ」
「いや、待ってくれ、どうしてそんなことをするんだ。お前が作った魔王から世界を守るためにサーリアが頑張ってい──」
「姉様が世界を守るために頑張ってる?」
魔神が僕の言葉を遮る。
「ああ、そうだ。だからこんなことはやめろ。まだ魔王を召喚していないのならまだ間に合うはずだろ」
「何を勘違いしているのか知らないけど」
魔神がサーリアを指さして言葉を紡ぐ。
「あの姉様が魔王を召喚しようって思いついたんだよ」
「え?」
思わずサーリアの方を向く。さっきから1度も喋っていないサーリアは僕が見ているのに気付くと小さく頷いた。
「そうだ。私が思いついたことだ」
「何でそんなことを」
するんだ? っと聞く前に魔神が答えてくれた。
「遊びだよ」
「遊びだって?」
「そう、遊び。私達が日頃何をしているか知ってる?」
そういえば女神が何をしているのか知らないな。僕が読んだことのあるラノベでは世界の人口を調整したり、死んだ人間に転生するかを聞いていたけど実際に何をしているのか知らないな。
「私達は世界の調和を維持しているのよ。例えば大災害。あれは増えすぎた人間を減らすため。もちろん人間だけじゃなく動物、植物、虫やプランクトンまで、全ての生き物や無機物を調整しているの。そんなことを何百年も続けていたらどうなるかわかる?」
全ての物を調整して、それを何百年も繰り返していたらそれは
「精神が壊れる?」
「残念。私達女神はそんなことでは狂わないよ。正解は──飽きてくるのよ」
魔神が部屋に置いてあった黒い人形を手で弄びながら言った。
「そして飽きてきたら遊びたくなるの。だから戦争ゲームをしようってことになってね」
「お前が元々いた世界の調整役であるこいつとお前が転移した世界の調整の調整役である私が協力して遊んでいるわけだ」
サーリアが──いや、女神がそう言った。
「そして今回は姉様の世界で戦争を起こすことになって私の世界から勇者と魔王を2人、転移させたわけ。それと地球で起こっていた第一次世界大戦、あれ私達の暇潰しだよ」
勇者と魔王を2人?
勇者が既に2人転移しているのだが?
「それはそうだろ。だってお前が魔王なんだからな」