第68話 ハク
脱衣所でサッと服を脱ぎ、扉に手をかけると中から水の音が聞こえた。
ふむ、これはアオイかマインが中にいるのかな?
よし、突入しよう。この、お風呂に入ろうとしたら女の子が入っていた、というのはライトノベルではよくある話だ。僕が日本で読んでいたラブコメにも沢山出ていた。
ここで入らなければ男ではない。
思いっきって扉を全開にする。
そこには顔を真っ赤にして腕で体を隠しながらこっちを睨んでくる女の子──ではなく、そこには水浴びをしているハクがいた。
「にゃー」
体を震わせて水気を飛ばしひと鳴きしてから僕の横を通り過ぎて行った。
僕? 僕はもちろん放心状態です。
まさか女の子の代わりに(擬人化していない)猫がいるとは。
というか抱っこしてすぐに体を洗うなんて、どれだけ僕に触られるのが嫌なんだよ。
少し落ち込みながら落ちている毛を洗い流す。
少し浸かろうかと思ったが沢山毛が浮いていたのでやめた。
今日はグッスリと寝て嫌な出来事を忘れよう。こんな気持ちで戦いたくない。
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マインから、罠の掛かり具合を聞きながら朝ごはんを食べている。
驚いたことに人間、魔人は誰も掛かっていなかったみたいだ。ただ猪と大型、2メートルくらいの鴉が掛かった。
やはり魔の森に住むだけあって相当強いみたいだな。仕留めた猪や鴉を罠に投げつけて罠を無効化していた。
これは罠を一晩中見張って貰っていた梟の話なので信用出来る。
それとハクの件もアオイ達に聞いてみた。
「私が抱っこしても何も起こりませんよ…」
「私の時はぶるぶる震えますね」
アオイが足元にいたハクを抱いて見せ、マインがアオイからハクを奪って抱いて見せてくる。
確かにマインの方は震えているな。やはり天使は生き物を安心させるのか。(違います)
アオイが少し考え込むように目を閉じて提案してきた。
「今日は自由行動にしませんか…」
「なんでだ?」
「せっかく森に来たので遊びたくて…」
ああ、確かに前に森に来た時は揉めてたからな。
「うん、今日は自由行動にしようか」
「それではハクを借りますね…」
そう言ってアオイは部屋から出て行った。そしてマインも何故か付いて行った。
さて今日は1人だけどサッサと村を見つけて突っ込みますか。
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「それで張り切って出かけたのに見つけられなかったのですか…」
「その通り過ぎて何も言えないな」
今僕らが話しているのは僕の自室だ。
あの後、張り切って森に駆け出したところまでは良かったのだけど、村の位置の見当もつかず、森の中を走り回っていたら湖を見つけそこら辺にある物で釣竿を作って釣りをして日が暮れたから屋敷に戻ってきた訳で
「どうして村を探しに行って、湖の主を釣ってくるのですか」
マインの言う通り、釣りをしていたら主を釣り上げました。
「不思議ではないだろ」
「これが不思議に思えないのなら常識を習った方がいいと思います」
マインは時々酷いことを言うな。
だいたい僕が動いて何も怒らないわけが無いじゃないか。
「仕方ないですね。これを使って夜ご飯を作るので食べたらハクと一緒に寝てください…」
「ハクと? いや、無理だろ。あれだけ嫌がっ」
いきなりハクが僕の膝の上に乗ってきた。
「いけそうですね…」
「大丈夫そうですね」
すごい、初めてだ。今まで数日間一緒の屋敷で過ごしてようやく懐いてくれた。
今日もよく眠れそうだ。
それと湖の主は普通に美味しかった。
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今日の朝は珍しく自分で起きることが出来た。
僕はいつも通りに食堂に行こうとしたのだがその部屋には扉がなかった。
またその部屋は色も家具も無いただの白い部屋だった。
ただ何処かで見たような女性が微笑みながら僕を見ていた。
「お久しぶりです。クレナイ レンさん。また、会いましたね」
僕を異世界に送ったあの女神──サーリアが人形に喋らせずに自分の口で喋っていた。