第67話 殲滅戦
私を倒すなら倍の数揃えて来いってか、化け物だな。(お前が言うな)
「怪我とかはないのか?」
「ミイが少し怪我したことと服が血で汚れたことぐらいですね」
差し出されたミイの腕を見ると5センチくらいの切り傷があった。
ふむ、これはアウトだな。
ミイの腕の傷はアオイが直してくれたがこれはアウトだ。
「村人全員で襲ってきたのか?」
「いえ、村の1部が来ていたみたいです…」
「よし、目標ができた」
僕は近くにあった剣を手に取って床に刺す。
ズドンと良い音を立てて剣が床に突き刺さる。
「魔王の森に行って殲滅戦だ」
格好よく言い切ったのだが
「レン様、床を傷つけたのなら直してください」
「それにこういう事はやめてください。ミイ達が真似をしたらどうするんですか…」
2人にこっぴどく怒られた。
いや、あそこは決めないといけないところだったろ。
「それに戦う理由が不純ですよ」
マインがすごく嬉しそうに笑いながら言ってきた。
何を言っているのか全くわからない。
「不純ってなんでだ?」
するとマインの笑顔が年相応のものからフェンリルの森で見せた狂人独特の笑顔に変わる。
「馬車を襲ったから、ミイに傷を付けたから、そんな理由で殺しに行くのではないのでしょう?」
マインが床に刺さっていた剣を抜いて少し刃の部分を眺め、それを僕の眉間に向かって投擲する。
「ただ戦いたくなっただけ。そう、それでこそレン様です。そのレン様が好きなんですよ」
投擲された剣の柄を掴み取る。
掴み取った剣の向こう側でマインが楽しそうに嗤っていた。
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旅の準備が出来た。と言っても御者台と馬の準備をするだけだからな。
今まで普通に生活していたけれどやはり戦いたい。前の世界ではゲームだけで楽しかったけれどマインと実際に殺り合ってから実戦がすごく楽しいことに気付いたんだよ。人は本当に楽しいものに出会ったらその楽しさをそう簡単には忘れられないんだよ。求めてしまうんだよ。
「だからきちんと準備して行かないとな」
「心を読んでいる前提で話をするのをやめてください…」
「でも読めてるだろ」
「私だけですよ…」
アオイ以外の全員が全力で頷いている。
「わかった。これからはできるだけ口に出すよ」
「当たり前のような気もしますけどね…」
その後も雑談をして1日目を過ごした。御者はいつも通りミイがしてくれている。
このまま行けば明日には着きそうだな。
さあ、おやすみ。
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その後も順調に進み2日目の夕方には森に着くことが出来た。
もちろんただボーッとしていた訳では無い。森に仕掛ける用の罠を作っていた。
作っていたのはお馴染みのトラバサミとかすみ罠だ。
トラバサミは上に乗った獲物を歯で挟む罠で、かすみ罠は飛んでいる鳥などを捕まえる罠だ。
今回は対人用に大きい物を作った。
「レンくん、設置終わりました…」
「こちらも終わりました」
アオイとマインが手分けして設置してくれた。
さすがにこの森の全体に罠を仕掛けるのは無理なのでこの辺り一帯にだけ設置してある。ただそれでも相当の範囲があるので丸一日かかった。
また罠はどちらも怪我をしないように歯を潰したりしてある。
これでハンデなしで戦えるだろう。
「レンくん、明日に備えて寝ませんか…」
うーん、僕は寝なくても大丈夫だし、やりたいことがあるから寝なくてもいいかな。
隣ではミイやナイナが可愛い寝息を立てながら寝ている。
アオイやマインも僕が寝なかったら起きてそうだな。仕方ない寝るか。
「それじゃ一旦休憩するか」
「そうですね…」
「ミイ達は私達が連れていきます」
「そうか」と言い残して屋敷に戻る。
早く戦いたい。おそらくマインが戦ったのは本当に強いものではなく真ん中くらいの敵だろう。
村にはもっと強い敵がいるはずだ。マインと戦うのは魔王を倒した後にフェンリルの森でやりたいからな、今は我慢だ。
さあ明日は楽しい殺し合いだ。
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「レンくん、楽しそうですね…」
レン様が屋敷に戻ってすぐにアオイが呟きました。
確かにレン様は楽しそうに見えます。
だけど私と戦り合った時みたいに純粋に戦いを楽しんでいるというより退屈しのぎに戦っているようなものですかね。
まあ、私は私の好きなレン様が再戦の時まで生きていてくれればいいんです。
何故かレン様に何かしてあげたい、と思ってしまう時があるのですが、私は狂ってしまったのでしょうか。
…考えてもわかりませんね。アオイも私と似たようなところがあるみたいですが、理解出来ません。人の心を読むのは難しいのですね。天使だからでしょうか。
とりあえず屋敷に戻りますか、明日は楽しい1日になる予定ですから。
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さて寝る前にシャワーを浴びておこう。
さっきハクにあって抱き上げたのだがすぐに逃げられた、それも顔をこちらに1度も向けずにだ。見たところ爪とぎ用の玩具や鼠を模した玩具も綺麗なまま放置されている。気に入らなかったのだろうか。
それにこの頃シャワーを浴びていないので臭くなっているかもしれない。
と、いうわけで入ることにした。
脱衣所でサッと服を脱ぎ、扉に手をかけると中から水の音が聞こえた。