第59話 お昼寝
「革トカゲ狩りにレット・イット・ゴー」
「Let's go ですよレンくん…」
ものすごい上手い発音で修正された。
折角決まってたのに。それとこの場の雰囲気で察してミイが馬車を進めてくれた。さすがミイ、英語がこの世界では通じないはずなのに雰囲気で察してくれた。
そして予定通り僕らだけ収納に戻る。
あ、ミイには既にこのことは言ってあるし魔法陣も出しっぱなしにしてあるからミイが泣き出すことは無いよ。
だから思いっきりゴロゴロ出来る。
「幸せそうですね、レンくん…」
「こんな天気のいい日に外で寝れるのだからな」
ベッドを外に運んで気温と湿度と太陽を調整して5月くらいにする。そしてベッドに潜り込んで寝る。
うん、僕は今、とても幸せだな。
右を見れば僕と同じように寝ているマインとアオイ、上を見れば輝く太陽と青空、そして左を見れば開きっぱなしの魔法陣から上半身を出して半泣きのミイがこちらを…えっ?
何でミイがこっちを見ているんだ?
「何かをあったのか?というか馬は大丈夫なのか?」
収納の中にいるから怪我はしないけど馬車が無くなるのは嫌だな。
「魔獣が出てきたです。うう、どうするですか」
や、やばい本当に泣きそうだ。というか今までこんなことは無かったのにな、ミイに変わった途端魔獣が出るなんておかしいな。とか思っていたらマインが答えを教えてくれた。
「まーた出たんですかー?仕方ないですねー。さっさと倒してきますー」
マインは眠いのか少しセリフが間延びになっている。
しかしいつも魔獣が出る度に倒してくれていたのか。おそらく僕らの気配が感じられなかったからすぐに襲ってきたのだろう。
マインが屋敷に戻って行った。その間にベッドから出る。心地よすぎて出れなかったんだよな。
「ほら起きろ、アオイ」
隣で寝ているアオイの方を掴んで揺らす。だけど全然起きない。朝は絶対と言ってもいいほど僕よりも先におきているのにこういう時には起きないんだな。
とりあえず布団を取り上げる。
「うーん、何かあったんですか…」
「魔獣が出たんだって。早く起きろよ」
アオイは少し目をゴシゴシしてたけど話を説明し終わった途端また寝だした。
って何ですぐに寝るんだよ。
「待て待て寝るな。魔獣が出たんだぞ」
「以前魔獣が出た時は来なかったじゃないですか。それにいつも通りマインが倒してくれますよ」
うっ、それを言われると何も言い返せないな。
「ほらマインも来ましたから数秒で終わりますよ…」
屋敷からマインが木箱を抱えて戻ってきた。木箱の中には沢山の骨が入っていた。
「何で骨なんか持ってきたんだ?」
「ただの骨じゃないですよ。ほらこんな風に尖らしてある骨です」
アオイが見せてくれた骨は片方が鋭く尖っていた。あれは猪とかの解体の時に片手間で作っていた奴か。
「馬車にも沢山置いていたんですけど朝の魔獣狩りに使ってしまったので補充するのですよ」
へー、そんな物で倒してたんだ?
「れ、レン様そんなに悠長に待っている時間は無いと思うです。早くしないと馬車が襲われるです」
ん?
ああ、そうだった外で魔獣に襲われているんだっけ。でもそんなに急がなくてもミイが来た時点で僕らの時間を現実世界の100倍に上げたからここで2分ほど話しても外じゃ1秒とちょっとなんだよな。
「大丈夫だよ、ミイ。それよりもマインが魔獣を倒すみたいだから見に行こうか」
「はいです」
ミイとアオイを連れて魔法陣を潜る。馬車の外は死んだ魔獣がいっぱいいた。戦闘はしていないみたいだな。もう終わってしまったのか。
「狩り終わったのですか…」
「いえ、いきなり魔獣達が逃げていったんですよ」
はあ、どうやら魔獣に怖がられる体質?は変わっていないみたいだな。
「いつもこんな感じなのか?」
「はい、でも馬車に近づく前に殺してそのままほっといているのでいつも死体は解体も回収もしませんけど」
マインが解体をしながら教えてくれた。あっ、ミイはさっきから僕の手で目を塞がれているから何も見えないよ。
こんなもの、10歳の子供が見るものじゃないからな。それを10歳のマインがやっているのもどうかと思うけどな。
「解体も終わりましたのでそろそろ出発しましょう」
「わかったです」
「いや、もう暗くなってきたしここで野営するか」
朝から色々あったので既に辺りは黄昏時だ。
「野営って言っても屋敷のベッドで寝ますけどね…」
「そこは気分だよ」
馬を休ませて馬車を固定し魔法陣で屋敷に帰る。
「わ、私のような奴隷は倉庫や馬小屋で寝るです」
「だからこんな奴は倉庫にでも放り込んでおけばいいんですよ」
そんなことを言っているのはミイとマインだ。
屋敷に戻ってからミイの部屋を決めるために屋敷の使用人用の部屋に来ている。
「ちょうど屋敷の裏が空いているのでそこに寝かせるのはどうでしょうか…」
「いや、屋敷の裏って畑だよね。それも最初のゴブリン豆の畑」