第39話 ゴブリン豆
マインが腰のポーチから小さな袋を出して見せてくれた。
「これがゴブリン豆です。1度植えるとものすごい勢いで増殖するので食糧難の時に重宝されますよ」
ゴブリン豆は大きめの茶色い豆だった。例えるならそら豆サイズの大豆だな。
「普通の大豆より大きいな」
「そうですか?豆は殆どこれくらいの大きさですよ」
やっぱり異世界は大きい物が多いのかな。
なんにせよこれで料理のレパートリーが増えたな?
さっきからアオイのセリフがないな。どうしたんだろう。
「さっきからずっと黙ってるけど何か気になるのか?」
「いえ、マインのコルテッタが少し気になって…」
「味見してみますか?」
「はい、少しも貰いますね…」
アオイが自分のスプーン(のようなもの)ですくって口の中に…あっ、固まった。どうしたんだろう?
「なぁマイン。僕も少し貰っていいか?」
「いいですよ。それではレン様口を大きく開けてください」
マインがスプーンを握りしめながら了承してくれた。嫌な予感がする。
「口を開けなければいけない理由とスプーンを握っている理由を教えてくれ」
「レン様に食べさしてあげようかと思いまして」
「いらないよそんな気遣い」
恋人同士でもないのに口開けてあーんとかやったらダメだろ。それに恥ずかしいし。
「──チッ」
「舌打ち!? 今舌打ちしたよな。」
「そんなはしたない事はしませんよ」
「ニッコリ笑えば全てが良くなると思ってるならそれは間違いだぞ」
露骨に悔しがるマインを横目にコルテッタを1口食べ──辛っ、辛いすごく辛いなんだこの料理すごく辛いんだけど。み、水飲まないと。コップが空だったのでピッチャー(水差しのことだぞ、野球の投手を思い浮かべたそこの君、もっと勉強したまえ)から水を注いで一息に飲み干す。
「ふぅ、これ辛過ぎないか?」
「そういう料理ですから。それよりもアオイをほっといて大丈夫何ですか?さっきからピクリとも動きませんよ」
わかってるなら助けてあげろよ。
僕はアオイのコップに水を入れてアオイに手渡してあげた。
アオイは昔から辛いのは苦手だったからな。このコルテッタは見た目に反してすごく辛かったから驚いたのだろう。
「ふぅ、レンくんありがとうございます…」
「すごく辛かったけど大丈夫か?」
「大丈夫です。水を飲んで落ち着きました。マインどうしてあれを食べて真顔でいられるんですか…」
確かにマインが美味しそうに食べていたから僕も警戒せずに食べたんだよな。
「辛いものが昔から好きだったので」
「なるほど、昔からこんなの食ってたのか」
「みんな食べ終わりましたしそろそろ出ませんか…」
「そうですね」
「魔術ギルドにも寄らないといけないからな」
「そっちがメインですけどね…」
3人で合計銀貨3枚だった。ひとつの料理が銀貨1枚だな。高いのか安いのかよくわからないな。盗賊を1人捕まえて銀貨2枚だったよな。それなら少し高めかな?
まあ美味しかったし少しくらい高くてもいいよな。
さあ美味しいものも食べたことだし魔術ギルドにいきますか。
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魔術ギルドに着いた。と言っても料理屋の隣だから数メートルしか歩いていない。
今僕はアオイから魔術書に書いてあった回復魔法を教えて貰っている。天使のアオイが魔力不足で使えなくても勇者の僕なら使えるかもしれないからな。
「──我が魔力をもって癒せ、リジェネーション。ここまでが詠唱です…」
「ありがとう。それじゃあ1回やってみるか」
魔法は自分の魔力でイメージを具現化する術だ。
水を出すなら魔力を水に変えて具現化する。詠唱は具現化を補助する役割だ。詠唱、またはイメージによって魔力の形を変え、形が出来たら具現化する。魔力が足りなかった場合具現化は失敗する。
「──もって癒せ、リジェネーション」
「………」
「………」
「何も起きませんね…」
失敗か、どうやら僕の魔力でも足りなかったみたいだな。
「魔術ギルドで魔力の増やし方を教えてもらわないといけませんね…」
いや、増やし方があるかどうかわからないし、この魔法も必要ないからそこまで重要でもないんだけどな。
とりあえず魔術ギルドの試験受けてくるか。