幕間 マイン──後編
ある日旅人が珍しく諭すような言葉を言ってきた。
「いいか小娘。お前にもいつか好きな人ができる。そいつは魔王だが随分と優しい。きっとお前に似合う恋人になるだろう」
まるで未来の事がわかっているみたいに語っていた。
未来の事がわかるの?
と聞いてみたが。
「いずれ分かる。その時にお前が生きているか、死んでいるかは、分からんがな」
としか言ってくれなかった。
その少し後で私達は盗賊に襲われた。
5人で掛かって来て数で押し切られて負けた。
旅人は私を庇って盗賊に切り殺された。
その時になって私の中の何かが無くなった気がした。
気付いた時には旅人の死体を抱えて泣いていた。周りを見ると盗賊の死体が落ちていた。
その時、私は悲しいとも悔しいとも感じずにただ
人の血は暖かいんだ。
ってただそれだけ思ったんだ。私の心は冷えきっていて、旅人の体も冷えきっていた。だけど盗賊の死体は暖かかった。優しかった旅人よりも盗賊の方が暖かいなんて皮肉なことだと思う。
それから旅人の荷物を持って旅に出た。
旅人の荷物の中はナイフといくつかの道具が入っていた。旅人の名前も荷物に書いてあった。
ヤメガ・パイロ
それが旅人の名前だった。
私の村を襲った騎士を率いていたのが勇者だと知ったのはヤメガが死んでから数日経った日だった。
盗賊を殺した街道から少し離れた街で聞いた話だった。
元々私は勇者が良い人だと教わって来たからショックは大きかった。
「なんだ。やっぱり人間は皆害虫なんだ」
そう思ったからすぐに立ち直ることが出来た。
それから私は人を殺し続けた。
何人も何人も殺した。殺して殺して殺し続けた。
私は人が憎いから人を殺すのだと思っていたでも私は楽しかった。村を襲ったのと同じ種族が泣き叫ぶのを見てすごく興奮したのを覚えている。
2ヶ月程で「人斬り」と呼ばれて逃げられるようになった。
この頃の私は人を全滅させようと必死だった。いや人を殺すことが楽しくてやめられなかった。
そして騎士との殺し合いも楽しんでいた。
だけど人間を殺し尽くす前に騎士に捕まった。
おそらくこのまま処刑されるのだろうと思って目を閉じた。
さすがの私でも近衛騎士全員を一人で倒せるとは思っていない。
だが私の命は消えなかった。
そればかりか勇者の仲間になれと言ってくる。
勇者を殺してもいいのか?
と聞いたが、騎士は
「どうせ異世界から来る人外共だから殺してもいいさ」
と吐き捨てて行った。
この話を聞いていたからか私の村を襲った勇者は私を選ばなかった。
でも異世界の勇者が私を選んだのだ。
もしかしてこいつは馬鹿なのか?まあ、いいとりあえずこいつは殺す。
武器もくれた。この武器なら勇者でも殺せる。
「これでアオイやマインに武器や物資を送れないかと思ってな」
勇者を殺す算段を考えていたら、いきなり勇者に呼び捨てにされた。
馴れ馴れしい私を呼び捨てにしていいのはライラだけなのに。
「………もうすぐ死ぬんですけどね」
「ん、何か言ったかマイン」
どうやら少し心の声が漏れていたらしい。これ以上隙が出ないうちに始めた方がいいだろうか?
「それよりも王都の外にある森で魔獣狩りをしませんか。新しい武器も試したいので」
思い切って魔獣狩りに誘ってみた。
思いの外勇者は快く了承してくれ森へと行けた。
途中で動物を何匹か狩ってみたりした。貰った武器の感覚を掴む意図もあったがこのまま何も殺さなかったら勇者を殺してしまいそうだったからだ。
ある程度進むと少し開けた広場に出た。そうだなここで勇者を殺すか。
「ここで野宿にしましょう。少し薪を取ってきますね」
そう言って森に入っていった。もちろん薪を集めるためではない。ヤメガから貰ったお守りを隠すためだ。折角ヤメガから貰ったお守りを血で汚したくはない。
「旅人さん。今日も人を殺しますね。まだ好きな人というのはいませんが私は生きてますよ」
天国という物があるのかは知らないが一応言っておく。
広場に戻ると勇者がいつの間にかテントを用意していた。あんな大きな物は持ってきてなかったはず。そこら辺の木を切って作ったのだろうか。
だがそんなことはどうでもいい。ここならあまり人は来ない。思う存分勇者を殺せる。せめて私が楽しめるくらいには強いといいな。さあ今日も嗤って殺そう。
「勇者様。さっさと死んでください」