第1話 プロローグ
ここは真っ白な世界。雪が降り積もった銀世界とか、緑色の朝日が差し込む森でもなく、ただなーにもない世界。世界創造した唯一神とやらがサボった裏世界みたいなものなのだろうか。
「ようこそ クレナイ レンさん」
???としか呼べないどこかの誰かさんに呼びかけられたところで自己紹介と行こう。
僕の名前は紅 蓮。読みはさっき誰かさんに呼ばれた通りだ。日本とかアメリカとかのちっぽけな枠組みが消滅し、東と西の冷戦のときみたいに世界が大雑把に分類された世界の住人だ。ちょっと頭が良かったせいで軍系の学校に入ったが、周りの優等生に気圧されてすぐにステイホームに切りかえたThe NEETだ。女友達の葵とゲームしたり、1人寂しくアニメを見たりするだけのろくでなし。身長普通、体力普通より少し下。顔はお察し。それが僕だ。服は黒いジャージで頭はボサボサ。外に行けるような状態じゃない。
「あのー、聞いてますか?」
そして、この???さんはこの世界で唯一、白くないものだ。いや、服が白くてふわふわしてるドレスだから白だったな。まー、誰にでもわかるように説明しろって言われたら、ギリシア神話に出てきそうな女神様だ。白いドレスに、清楚系のオーラを纏って、金色のネックレス。そして錫杖……になんか刃が付いてる気がするけど杖っぽいのは持ってる。
「無視は酷くないですか?」
ええ、酷いと思います。でも突然気づいたら白い部屋に美女と閉じ込められて、美女の方から声をかけられる。そんな状況でお洒落に言葉を返せるなら引きこもってなんかないです。ニートに対初見美女用のコミュ力があると思うな!
とか、なんとか考えながら薄ら笑いを浮かべていたら向こうが勝手に察してくれたのか手に女神のぬいぐるみみたいなのを装着する。そして顔の前でひょこひょこ動かして
「く、クレナイさん、話せますか?」
え、可愛い。
というかこれ、あれだ。照れて話せない幼稚園児に保育士がやるやつだ。こんな幼稚なやつが効果あるのかと思ったけど意外と緊張しない! 不思議だ! これが女神パワーってやつか。
「えっと、初めましてで大丈夫ですかね?」
「はい、今の状況を説明してもいいですか?」
今の状況……ふむ。確かに現状を僕が説明しようとしたら寝癖ニートが白い世界で美少女に話しかけられたことくらいしか言えない。ここは素直にお願いしよう。
「では、簡単な説明を。ここはクレナイさんが生きていた世界とは別の世界の管理室です」
ほう、別の世界、ね。これが夢とかそんなものでは無い限り、異世界転移の主人公になったようだ。
だが、ゲームみたいに起きたら既に異世界で、魔王に姫がさらわれてるって状況では無さそうだ。
魔王もなにもないし、管理室って言う割には殺風景すぎる。
「スイッチやレバーも何も無いのに管理室?」
「世界はそんなボタンやらで管理できるほどシンプルにできてないんですよ」
しかし、本当にここには何も無く、動かせそうなものは1つもない。これをシンプルと言わずして、何をシンプルと言うのだろうか。
「何も無い訳では無いです。歪みがあります」
「歪み?」
「ええ、ちょうどあれですね」
と言って少し遠くの方を指さす。そこも周りと同じように白い。いや、ほんの少しだけグレーが混じっている。それは地面が汚れてる訳ではなく、イメージとしてグシャグシャにした半透明の新聞紙が宙に浮かんでいるような感じだ。
「あれを放置してると地震やら山火事やらの災害が起きます」
女神がこの場所から錫杖を振ると遠くにあった歪みが少し小さくなる。
「消さないんだ」
「歪みを完全に消しても、周りに分散させているだけで、根本的な解決にはなりません。いずれ分散させた歪みがさらに別の歪みと合わさって大きな歪みとして現れるんです」
つまりこれは今解決しないといけないこの世界の課題なのだ。後回しにしてもそれは悪化にしか繋がらない。
「だから解決できる程度に小さくして発散してるってことか」
「はい、しかし、それでも微小な歪みが積もり積もっていく、それがこれです」