第X話 旅の終わり
「さあ、2人とも、うちの主神様が会いたいって言うからちょっと死にに来てくれない?」
アオイが国だけでなく、周辺の国も含めて大陸を支配していた時に、サリアがやってくる。
「もう、そんな時間ですか…」
「まるでわかってたみたいな反応だね」
「分かってはいましたよ…」
アオイがメイドにレンを呼びに行かせ、戦闘の準備を整える。
「相変わらず未来予知のように対策が立ってるんだね」
「未来は知りませんが過去なら知っているので…」
1人の神が用意した門を潜り、ヴァルハラへと至る。
「さて、また、ここまで来ましたね…」
アオイが1本の剣を持ってレンの後ろから神々に語りかける。
「ああ、オーディンだかなんだか知らないが、殺しに来るって言うなら先に殺すしかないだろ。はは、燃えてくるな」
アオイから剣を受け取り、構える。
その剣の名はグラム。血液を燃料として魂を食らう魔剣である。
「そんな、剣程度で勝てると思っているのかい?」
「サリアは黙っていてください。きっと勝ちます…」
だが、レンが行動を起こす前に1本の槍がオーディンの後ろから現れ、レンの胸を穿つ。
「え? レン、くん…?」
レンの動きが止まる。
「ああ、なんだこれ、体のそこらじゅうが悲鳴上げてるぞ」
ただ、すぐに動き出す。だか、そのレンは先程までと雰囲気が違う。
「んー、やっぱり所持スキルも変わってるな。早めに確認しないとしくじりそうだな」
先程までの好戦的で、勘を頼りにしているような雰囲気は感じられず、逆に全てが手のひらの上の出来事のような、恐怖を感じる。
「何者ですか…」
羽の中から剣を取りだしてレンに構える。
「ああ、敵じゃないよ、アオイ。エースが戻ってきただけ」
エース、それは一番最初の、アオイを救ったレンの2つ名。
2回目以降、何故か与えられなかった資本主義軍での呼び名。
最上を認められたレンが、数万年もの時を経て、戻ってきた。
「何回くらいループしたんだ?」
『そうですね、1万辺りから数えるの辞めてしまいました』
大勢の人格が同時に喋ることによる、反響音を抑えることを辞める。
何度も何度もループし、アオイという人格を沢山詰め込んだマルチバージョンとも呼べるアオイから、原初の、レンと約束した1人のアオイに戻る。
「一体、何が起こったのか聞いてもいいかな?」
今まで経験したことのなかったことが目の前で起きてることに喜びを感じながら、サリアが初対面のレンに聞く。
「1番上でふんぞり返ってる主神様を引きずり下ろすんだよ」
1回目は、手も足も出なかった。800回くらいから腕を吹き飛ばせるようになった。
そして14256回目、ようやくオーディンを殺す要素が揃った。
「さあ、行くぞ」
アオイがループを繰り返しているあいだ、ずっと別のオーディンと殺しあっていた。レンが強くなる事に、オーディンも慣れていく、そんな切磋琢磨しあっていたレンが、その経験のないオーディンに負けるわけがない。
「ほう、やるな」
オーディンも反撃を繰り返すが、その全てがいなされ、吸収される。
エネルギーの塊であるオーディンを殺す方法。エネルギーの塊に攻撃を注ぎ込んでも、なんの意味もない。だが、魔剣グラムで切るなら別だ。血を吸ったそれは魂を、純粋なエネルギーを食らう。
「さすがだね。何故クレナイさんがここに来ることが決まっていたのか理解した気がするよ」
サリアがそう感じ取れるくらい、レンはオーディンに対して圧倒的だった。
オーディンの攻撃方法を、全て熟知しているかのように、予測して回避する。
そしてグラムをオーディンの胸に突き立て、エネルギーを根こそぎ奪う。
「これで終わりだ!」
魔剣グラムからドラゴンの顎のようなものが生まれ、オーディンに、噛み付く。
「これで世界からお前に供給されるエネルギーと、俺が奪うエネルギーが拮抗した」
世界から供給されるエネルギーを、レンに渡すだけのパイプと化したオーディンから目を逸らし、奪ったエネルギーに、意識を集中させる。
一点にエネルギーを集中させ、空間を歪める。
「この世界から脱出する気かい?」
「世界を変えるのに中から変える必要はないんだよ」
レンとアオイが歪んだ空間の前に立つ。
そして、時と空間を超越し、レンとアオイは目的の地へと至る。
レンは自分の夢を叶えるために、アオイはそんなレンを見届けるために、そこへ行く。