第120話 終焉
「そう、焦るな。まだ時はあるぞ」
オーディンが投じた槍が性格にマインの腹を撃ち抜く。
だが、その足止まらず、またその心も今だ死なない。
槍が離れたことも好機と捉え、穴を開けたその体に力を込めて前へ進む。
そして刀を振り、戦神の腕に刀が入る。
戦神は慌てずに逆側の腕を振り、完全に切り落とされる前に獣を振り払う。
そして2度目の爆煙が戦神の姿を覆う。
それが引き起こしたのは2つ。
爆発の衝撃にマインが吹き飛ばされ、刀も押されて腕を完全に切り離す。
「見事」
惜しみない賞賛が送られ戦神の元へ槍が帰る。
戦神による風穴と爆煙によるダメージで倒れたまま動けないマインに槍の穂先を向ける。
自分を楽しませた好敵手と、理性を捨て獣になった復讐の鬼に敬意を評して本来の姿でとどめを刺す。
「安らかに眠れ。存外楽しめた」
溜めを含んだ老神の一撃はマインの体を消滅させ、この場には死闘の証である血痕と戦神だけが残る。
それ以外には何も残らず。何も生まない戦いではあった。
だがその死は戦神だけでなく他の神々とアオイも見届ける。
そして世界は崩壊を始める。
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「それで? 惚れた男が死ぬ瞬間はどうだい?」
「悲しいものですね…」
「それが全く悲しそうに見えないから不思議だよ」
大きなスクリーンのようなものに魔法で映った戦闘とその終結を見て主催者が感想を求めた。
しかしアオイの感想は言葉のみの薄っぺらい物で全く感情を伴っていない。
「どうしてそんなに普通でいられるんだい? 幼馴染みが、想い人が死んだって言うのに何も感じていないじゃないか」
その疑問に答える前に世界の方が変化を始める。
まだ新しい神たちの存在が消滅し、世界が書き換えられていく。
「これは……世界の再生?」
サリアが起こっている現象を即座に理解する。そしてその原因すらも。
すなわち、自分の命を魔力に変換し、世界の再生を促したアオイのことを。
「なるほど、悲しみが薄かったのはやり直す方法を知っていたからか。まあ、そうだとしても薄すぎると思うけど。よく思いついたね」
「思いついたのは私じゃなくてレンくんですよ?」
サリアの間違いを否定する。
「レンくんが動けなくなり、私も戦神の攻撃によって致命傷を受けた時にレンくんが意思とともに託してくれたものです…」
アオイの回答はサリアの疑問に対する回答として成り立っていた。
しかしそれは先程見た事実とは違っていて、しかしその態度は、その口調は嘘を言っているものでは無い。
これが示すもの、それは
「その方法は1度目の時に教えて貰ったもの。そしてこの世界は既にループ後の、2回目以降の世界ということだね」
「その通りです…」
そしてアオイがループを経験しているという情報を含んで考えてみるとわかることが幾つかある。
「クレナイさんが魔王になってもそれほど驚かなかったのも、国を14歳で治めれたのも、そしてクレナイさんに対する恋愛感情──」
言葉を切り、今まで分からなかった疑問に答えを出す。
「クレナイさんを好きになったのは1度目、オリジナル……というのかな?まあ、1度目のクレナイさんにいじめっ子から助けてもらった時で、今回のイベントを君が自分で用意したのは自分がもう一度体験してみたかったからだね」
無言、アオイはサリアの問いかけに対して今回は何も答えない。
「無言は肯定ととらえるよ。それで次の疑問だ」
指を一本立てて真剣な顔で聞く。
「いったい何回ループしたんだい?」
「800回くらいですね。やはり戦神はそう簡単に倒せるものでもないみたいなので…」
なんでもないかのように言うがそれは少なくとも10000年以上を生きたということになる。
果たしてただの人間がそれだけの年月を経て正気を保っていられるものなのだろうか。
「戦神と戦わないという選択肢はなかったのかい?」
「レンくんが最後に言った言葉が『またここに来る』だったので私はその次を用意するだけです…」
「なるほど、まあクレナイさんはここに来ることを決定されていたみたいだけどね」
「だからそこまでの道のりを何度も繰り返すだけでした…」
忠誠心という言葉では表せないほどのレンを中心とした考え方。しかしそれも10000年も貫き通せば馬鹿に出来なくなる。
「そろそろこの世界も終わりますね…」
様々な物が消えていく中でアオイがつぶやく。
「最後に一つだけ」
アオイの体が光に包まれていく。
いやアオイの体、それ自体が魔力の光に変換されていく。
「クレナイさんの記憶はループで引き継がれてないのでしょ?
違う記憶の人間は全くの別物だと思うのだけど、その事を理解してクレナイさんに尽くしているのかい?」
アオイはただ今まで見せなかった嬉しそうな笑顔を浮かべて消えた。
そして、全ての存在が消滅した世界はもう一度同じ歴史を辿る。
唯一、アオイの周りだけが変化を伴って。
最終話です。
章を整理しました。