第118話 殺意
「それで、どうして分かったのかな?」
ここはサーリアとレンが初めて接点を持った場所。白く何も無い空間である。
そこにレン、マイン、サーリア、サリアが集まっていた。
「まあ、分かったのは俺じゃなくてアオイなんだけどな」
「またあの子か……」
サリアが複雑そうな顔をする。
「それでアオイはなんて言ってたんだい?」
「『そういえばサリアが来てから半年が経つのでそろそろきますね』だってさ」
「なんにも言ってないのによく分かるね、あの子は。しかし本当に未来予知としか思えないよ」
「確かになぁ」
2人そろってアオイの不自然さに首を傾げる。
「で、私達が呼ばれた要件はなんですか?」
アオイのことは不思議だなぁで終わらすことにしたマインがサリアに聞く。
「アオイは教えてくれなかったのかい?」
「楽しんできてとしか教えてくれませんでしたよ」
「そっかぁー」
ようやく納得したサリアが説明を始める。
「まあ、説明って言ってもそんなに言うことはないんだけどね。儀式の最中に分かるだろうし」
とだけ言って指を鳴らす。
するとレン達を中心として膨大な数の神が現れる。
それらは老人だったり犬だったりと見た目もオーラも様々だが、それら全てが何かしらを司る神であることは分かる。
そしてその幾千幾億と居る髪の中から一柱の神が歩きでる。
その少女の姿をしたその神は、レンの元に着くまでに幾度となく姿を変える。
少女から大きな犬に変わり地を駆け、鳥になっては老人へと。様々な姿を見せ、そして最後に褐色長身の男になり、レンの前で止まる。
「私の名前はナイアルラトホテップ。ニャルラトホテプとも呼ばれる時もある貌を持たない無貌なるものだよ」
「それじゃ、よろしく」
サリアの言葉に応じてナイアルラトホテップが腕を開く。
すると褐色長身の男から、天使が彫られた10メートルを超す大きな門へと姿を変える。
そしてサリアとサーリアが魔力剣と光剣を交差させる。
「「北欧を束ねる主神が1人。戦の神は戦場へと降り立つ」」
姉妹の言葉に応じて門が開き、奥に座る男の姿を見つける。
「うん? あれが何なんだ?」
座っている男。それが誰なのか、なんの関係があってここに来たのか。レンには理解できない。
しかし、マインはそれが誰なのかを即座に理解する。
「……旅人……さん?」
それは山鬼 仁という名前の1人の旅人であり、マインの恩人でもある人物だ。
「あ、あれが旅人か。でもなんでここに居るんだ?」
当然の疑問だが。それをマインが否定する。
「いえ、あれは旅人さんの姿をしてますが別物です」
マインはその瞳に憎しみの感情を宿らせてそれを見る。それはマインにとって憧れであった旅人の姿をしているが
「座り方も、目も、在り方が違う」
ただ姿を真似ただけの紛い物にマインは純粋な憎悪を向ける。
『なるほど』
今まで何も語らずただ無言のまま憂鬱そうに佇んでいた主神が口を開く。
『我にこの姿を模させたのはそれが理由か』
「さてと、全く自己紹介する気がない主神様に変わって私が説明するよ」
サリアが剣を下げ、レンたちの方向に振り向く。
「あれは北欧における主神。フレイヤとかヴァルキリエなどを従える戦神。オーディンだよ」
「なるほど。それと戦えということか?」
「そうだよ。その通り」
今までで最もテンションが高いサリアに対してマインが感情を押し殺したような声で問う。
「私に戦意を、殺意を抱かせるためだけにその姿で現れたと言うことですか?」
「うん? だからそうだと言っているよ?」
何も感じてはいない。サリアにとってこの姿で戦ってもらうのはマインの戦意を掻き立てるだけの意味しか持っていない。
しかし、憧れを穢されたマインにとってはそれだけではない。
憎しみに、怒りに身を委ねマインは敵をじっと見据える。そして昔レンに挑んだ時にも握っていた紅いナイフを取り出し、小さな瓶に詰めた血を垂らして戦闘の準備を整える。
「ん、どうやら戦意が湧いてきたようだね。じゃあ邪魔者は退散するとしよう」
神たちの姿が消え、サリアとサーリアも離れようと跳ぶ。
ヒュッ
という音とともにマインの手から小さな投げナイフがサリアに向かって放たれ、魔力の障壁によって弾かれる。