第117話 惨劇
「何故協力する方向になるんだ? あんな国滅ぼしてしまえばいいだろ!」
ここまで来るとマインですらも呆れてくる。
しかし同僚として可哀想に思っているのかアルバートが口を開く。
「俺たち外交官は国のトップが数ヶ月かけて大勢で話し合うレベルの事を数日で1人で解決するのが仕事だ。グレン魔導国を小国のように扱っていたが、本当に理解しているのか?
たった5年で国内の反乱を収めて国外へ目を向ける余裕まで作り出したのだぞ」
「そうだとしても外交官を殺した国と協力する価値はないだろ!」
「そこについても心配入りませんよ」
と、マインが話に割り込んでくる。
「既に内の者があなた達の国のトップと会談を済ませてあります。あなたやそれはもう外交官ではありませんよ」
それ、と言った時にマインが元外交官の死体を指さす。
「何故?」
もう既に自分が生きるという選択肢がないことに絶望している。しかし人間という種として生まれ持った知的好奇心か、疑問を並べ続ける。
──もしくは疑問を並べていれば生きていられると考えたのだろうか。
「『大国の魔王を怒らせたのは外交官ではない。ただ、自分の国から旅だった旅人である』という建前をほとんどの国が選んだ。と言えば分かりますか?」
出した疑問への答えは過程がなく結果だけ。しかしそれだけでもどのような過程を経たのかすぐに分かる。
そして国に捨てられたという結果も。
「は、ははは」
もう疑問の1つも思い浮かばない。結局、自分が最後まで生き残れたのは化け物の気まぐれであり、その気まぐれが終われば自分は死ぬ。それだけの事を突きつけられ。目をそらすこともできず、ただただ呆然と立ち尽くす。
「さて、もう十分みたいですね」
「最後に聞かせろ」
生きる希望を失い、自分が死ぬ未来しか見えなくなったベガだが、最期に最後の疑問を述べる。
「どうして疑問に答えてくれたんだ?」
「せっかく生き残ったのですから死ぬ前になぜ死ぬのか知ってから死ぬ方が良いかなって」
正しくただの気まぐれ。だが死ぬ運命は変わらない。
怒りすらもなく1人の人間として死を迎える。
「さて、レン様、そろそろ起きてください」
全ての死体を片付けてマインがレンを起こしにかかる。
今のレンは椅子に座っているのでダイビング・ニードロップ(ベッドで寝ている男子を起こすために開発された女子の奥義)を決めることは出来ない。
なので耳の近くで何度も呼びかけて起こすことにする。
「ん、おはよう、マイン」
「いや、おはようってもう昼過ぎですよ。だいたい会談中に昼寝なんてしないでください」
まだ寝ぼけているレンに対してマインは少し怒ったように声をかける。
「んで、話し合いは終わったのか?」
「利権どうこうの話も終わってますよ」
「あ、そこまで終わってるのか」
「随分と深い眠りについていたみたいですからね」
未だにマインはレンが寝てたことに対してグチグチと追及する。
「それじゃ次は」
「ええ」
レンが確認し、マインが肯定する。
「サリアからの呼び出しですね」