第116話 会談
さて、会談が始まった。
会談の場所として使われるのはサリア法国の応接間。
そこに半径が2メートルほどの石で作られた半円状の机が置かれており、その部分にメナール法国を除く法国の外交官たちが座り、護衛を従えている。それに対して直線の部分、すなわち彼らと向かい合うようにレンが座った。マインはレンの後ろで待機している。
(こいつらが怯えないのはやはり外交関係に慣れているからなのか?)
少し前に人に怯えられているという事実をマインから伝えられたレンが入ってすぐに疑問を抱く。
(いえ、私が相殺しているからですね。というか一緒にいる時は常に行ってますよ)
(いつからこんなことになってたんだ?)
(レン様が起きた時からですね。凍っていたせいか強くなってるみたいで)
(へー、強くなってたんだ)
と、レンたちが念話で話している間に準備が出来たみたいで真ん中に座る金髪でイケメンな男が話し始める。
「さて、私はウィルソン・ベガ。今回の会談の主催者を務めさせていただきます」
その男は貴族らしい礼服に身を包み、優雅な礼を見せる。
それだけなら何も問題はなかったのだが、周りからの反応が普通ではなかった。
例えばまるで汚物の対象を見るかのような目で
「ベガ殿、こんな家畜共にそれだけの礼を示す必要はないだろう」
と言った者がいた。それは豚のように太った髭面で銀髪の豚男、シュバイン・ロークだ。なお、どこの国の何だとかはどーでもいいので省く。
「5年もの間、国政を放棄して行方不明になっていた愚王に礼など示す必要はないと思わんかね?」
「しかしですね……」
「いやはや全くその通りですな。敵国のど真ん中に入るというのに護衛を1人しか連れてこないとは。正しく愚の骨頂としか言い様がないでしょう」
マインを見ながらそう言い放ったのはナール・レイだ。ナールは長い銀髪を後ろで纏めたメガネの男だ。
そしてナールの言葉を発端として話し合いは終始無言を貫いてレンを睨んでいる青い髪の男と、そんなことは露ほども知らないレンを除け者にしながら進んでいく。
その結論として出るものはアオイやマインには容易に想像できるものだった。
すなわち
「この外に待機している聖騎士。その全員が掛かれば楽に倒せるでしょうな」
「ええ、ここにいる護衛だけでも倒せそうな程に弱そうですが」
ははははははは、と笑う国の代表に対してマインが今までの話を纏めて1つだけ質問する。
「それは私達の国と戦争をするという事でよろしいですか?」
「戦争なんて仰々しいものにはならないと思うがね。そう例えば森から出てきたただの獣を相手に聖騎士を投入するようなものにね」
それはすなわちただの作業になるという事だ。
そしてその言葉に同調する。
「以前のようにメナール法国と連盟軍ではなく、法国軍とそちらの戦いになりますからな」
「確かに、元々神の敵なのですから討ってしまえば問題ではなくなる」
そしてベガも戦争をするという意見に賛成の意を示す。
そして話の流れが戦争に向かって行ったのを確認し、マインが(寝ている)レンの後ろから右前に出る。
「残念です」
一言、たった一言を紡ぎ、マインは剣を振るう。その剣は的確に彼らの首を弾き飛ばす。
最後に剣が向かったベガは護衛の手によって守られる。いや、正確には首を切られる前の護衛の手によって弾き飛ばされる。
「なっ!」
ベガが驚き、ベガ以外の護衛が口を開いて主の名を呼ぼうとするがそれぞれの護衛の頭に投げナイフが深々と突き刺さり、護衛の口が強制的に閉じられる。
「1人斬り損ねましたね」
マインがそうつぶやく。
その言葉を聞いているのは4人。
ベガ、無言の男、その護衛だ。
無言の男とその護衛には1度も剣を向けられていない。
ベガはその事に疑問を覚える。
「ど、どうして貴殿は狙われないのですか」
生きるためには手段を選ばず、強いものに流されて生きてきたベガだからこそ、この一瞬で弱者だと思っていたはずのマインに取り入ろうとする方法を模索しだす。
「私からも聞きたいことがあるのですが、どうしてレン様を睨んでいたのですか?」
生死がかかっていて必死なベガの問と、ただただ不思議に思ったマインの質問。優先したのは
「クレナイ殿を睨んでいたのでは無い。ただ、少し不思議というか驚きだったものでね」
マインの質問だ。そしてこの選択によってベガはこの場での優先順位を悟る。
すなわち、今この場ではマインたちの存在は決して格下ではなく逆に自分の方こそ気分一つで消される運命にあるのだと。
「不思議とは?」
「5年ほど消息を絶ちつつも国の政治を上手く進めていたはずの魔王がまさか会談中に昼寝を始めるとは思ってもいなかったのでね」
ここまで来てようやくベガにも状況が理解出来た。
無言の男とマインは知り合いで無言の男はこうなることを知っていたということを。
そしてベガの心に浮かぶのは怒り。部下を殺された怒り、裏切ったことに対する怒り。それらがベガの理性を塗りつぶす。
「いつからなんだ!いつそこまでの関係を築いたのだ!」
怒りと恐怖によって理性を失ったベガは口調まで変り、そして無言の男に掴みかかる。
当然、マインが斬り損ねを斬ろうとするが、それを無言の男がそれを片手を上げることによって止める。
これを見てベガは対等の関係にあると感じる。そしてそれは真実だ。
「何故裏切った。答えろアルバート!」
青髪で高身長の男、アルバートは同僚だった男に悲しそうに返す。
「裏切ってなどいない。元々ここは彼らとの話し合いの場であり、そのために必要なものは全て準備されていた。それならば対等な立場で話し合うのが普通ではないか?」
「それといつから、という質問の答えは昨日からですね。私達が休んでいた客間に来て話し合いを持ち出してきたんですよ。『明日のために大まかな所を決めさせて欲しい』って」
「何故協力する方向になるんだ? あんな国滅ぼしてしまえばいいだろ!」