第114話 食べ比べよう
レンと違ってワクワクドキドキを顔に貼り付けたサーリアのやることに毎度毎度反応するのが面倒臭くなったのか自分の席に座る。
女神姉妹は自分の椅子を持ってきてそれに座っている。
そしてレンはその2人を睨んでいる。
「はーい自信作が出来ましたよ」
「ま、まあ、自信作?ですよ…」
そう言って2人が運んできたのは人数分のハンバーグだ。
「私達の分も用意してくれたんだね」
「来てるのは分かってましたからね」
さて、ハンバーグだが、アオイの作ったハンバーグは綺麗な楕円形のお肉で、切ると肉汁と共に溶けたチーズがこんにちは、してくる完璧な出来だ。
それに対してマインの作ったものは綺麗な楕円形の炭で、切ると中から溶けてない脂やチーズと赤いお肉がこんにちはする物体だ。
そして第一印象の感想は。
「随分と美味しそうですね」
「片方は黒いけどな」
「さて、知っているかな? 『自信作』って『自』分が上手に出来たと『信』じたい作品のことなんだよ 」
サーリアは妹の料理で見なれているだろうが普通の感性を持つレンは複雑そうな顔を、とてもマインに共感できるサリアは悲しそうな顔でそう言った。
「さて、頂きましょうか」
「え?」
「あ、待って姉様!」
サリアの制止も聞かず、サーリアがお皿に手をつける。
剣神だからか、ナイフを置いてフォークを使って上手に切り分ける。そしてフォークをさして両方とも口に運ぶ。
「ふむふむ、良い出来ですね。スキルの補助もなしでこれだけの料理を作れるなんて、すご」
サーリアの言葉が途中で止まって動きも止まる。
「姉様!」
椅子ごと後ろに倒れたサーリアをサリアが魔法で支える。
「サーリアがやられたか」
そして最初の場面に戻るわけである。
以上、回想シーン終了。
そしてマインが出ていった扉と黒いのを交互に見てレンが口を開く。
「これって、どっちを優先すればいいんだ?」
「マインだね」
サリアが即答し、それに従ってレンがマインを追いかける。
そしてアオイが鑑定で黒いのを調べる。
「準神を殺せるレベルの毒ですか…」
「姉様は戦闘に特化した神様だからね。毒耐性もある程度持っているし、何とか気絶だけで済んだんだろうね」
「しかし、不思議ですね…」
アオイがフォークの先でハンバーグを刺す。表面は固く、中は火が通っていない。たこ焼きは外カリカリ中フワフワが美味しいらしいがこの外カリカリ中ネチョネチョのハンバーグは全く美味しそうにない。
「同じ材料で、同じ工程で、同じ物を作ったのに何でこんなに変わるんでしょうね…」
「火にかけるまでは普通だったのかい?」
「ええ、普通でしたよ…」
「鬼の性なのかな?」
「そうかもしれませんね…」
と、なんか勝手に種族のせいにしているサリアさん。確かにマインもサリアも味覚がおかしかったね。
そしてそんな話をしている時、レンはマインの部屋の前にいた。
「マイン」
「……1人にしてください」
レンが凍っても、仲間の騎士が死んでも平常心を保っていたマインが手料理で引きこもってしまった。
「料理スキルを使えば美味しいものができるだろ? それでいいじゃないか」
「駄目なんですよ。私だって手料理くらい出来るようになりたいんです」
マインにとってスキルというのは自分を手助けしてくれる他人だ。その力に頼るのは嫌なのだろう。
「手料理出来なくても問題ないし、だいたい俺が作ればいい話だろ?」
「少し黙っててください」
扉越しに2人は話す。そして正論を投げかけられたマインはそう返す。
「……レン様なんて死んでしまえばいいんですよ」
そして小さく呟く。それはレンにとって一度も言われたことの無い言葉で、動揺のあまり口を紡ぐ。
「ま、マインが丸くなった!」
ああ、うん、まぁ、そうだね。いつも死んでくださいっていう命令だもんね。願望になった点で優しくなってるよね。
と、レンが感動してる間にマインの方は名案(迷案?)を思いついたようで、
「そうです。レン様の口が無くなればもう料理のことで考え込む必要がなくなるはず」
レンに出す料理が作れないからレンを消すという本末転倒な考えだが実行できるだけの実力が伴うと、とても面倒臭い。
扉越しに剣を突き立て、レンに攻撃を加える。
「と、いうわけでレン様。口を切らせてもらいますね」
「うん、やだ」
それからアオイがマインを気絶させるまでレンは追いかけられたという。
大変ですねぇ。




