第111話 料理をしよう
ここはレンとマインが住んでるログハウスである。
今からお昼ご飯を作るのだがどうせだったら2人で作ろうということで2人でキッチンに立っているのだが。
「マイン先生、マイン先生、包丁やピーラーの類が見当たりません」
「え? なんですかその口調。とりあえずそこにあるのでそれを使ってください」
と、マインが指さす。それを何やらマインを先生呼びしているレンが見ると菜箸が置いてあった。どこをどう見ても菜箸しかなかった。もしかして菜箸風の鞘に入ってるのかな? と色々してみても結局菜箸は菜箸でしかなかった。
「これ?」
「そうですよ」
マインが菜箸をつかみ、それを使ってまるで豆腐でも切るかのようにポタトやキャロルを切り分けていく。
「はい、出来ましたよ」
「せめて刃物使おうぜ」
「なくても出来ますから」
その後も調理を進めていく。
そして肉を炒める時にまた不思議な出来事が起きた。
なんとフライパンに乗せた肉が一瞬で炒め終わったのだ。
「マインさん、マインさん、火力どれだけ大きいんだ?」
「弱火ですよ。というか料理スキル持ちならこれくらい出来ますけ……ど……」
化け物でも見るかのような目でマインが答える。
「もしかしてですけど、レン様って料理スキルが何をできるか知らないんですか?」
「持ってるとご飯が美味しくなるんだろ?」
「それだけじゃありませんよ。工程省略も権能の1つです。適切な道具と材料があればスキルが勝手にやってくれるんですよ」
ほら、と言ってマインが赤いナイフを魚に当てる。すると一瞬光った後には3枚におろされる。
「……すごいな」
「と言ってもまだレベルが低いので下ごしらえと焼くことしか出来ないんですけどね」
「それだけでも十分すごいと思うぞ」
「えへへ、ありがとうございます」
マインがキャラ崩壊レベルでニヤニヤする。
うーん、いつもの純粋無垢な笑顔はどこ行ったのかな?
と、そんなふわふわしてるマインに真剣な様子でレンが話しかける。
「なぁ、マイン。いつも朝、鍛錬してるだろ?」
その言葉を聞いてマインがニヤニヤをやめる。
「気付いていたんですね」
「その事なんだけどさ」
自分が煮込んでいる鍋の中を見ながら問う。
「それだけ強くてどうして鍛錬なんてするんだ?」
「人間に殺されないようにするためですよ」
「人間に?」
レンの驚きにマインが肯定する。
「人間は個ではとても弱い。魔法が使える中では最弱です。そして寿命も短い。ほとんどが50年やそこらで死んでしまう」
医学が発展していなく、医療系魔法を使えるものが少ないのも早死の原因だ。
「だからこそ、人間は自分一人の力を過信しない。道具を作り、大勢で集まり、自分自身の質を高めずに上を伸ばす。そんな雑魚どもの集まりです」
遠い日を思い出すようにマインが語る。
「でも、人と獣は大きく違う。何が違うか分かりますか?」
「知恵を持っているかどうかだろ?」
レンが日本にいた時に知った答えを口にする。
しかしマインは首を横に振る。
「獣は種を残し、人間は意志を残す、その違いですよ」
「意志を残す?」
「レン様は人間だからわからないかも知れませんが。親が子に、師匠が弟子に、自分の意思を残すなんてことは人間しかやらないことなんですよ。獣も私達も、化け物だってそんなことはしないんです」
マインが右手の甲を擦りながら話す。
「それ故に人間は強いんです。1人では成し遂げられないことを何世代もかけて成功させる。今の人間が私に勝てなくても、数年後にはどうなっているかわからない。私は人間が持っている強さを知っています」
レンがマインの行動の動機を悟る。すなわち
「旅人は人間だった?」
「本当は最初から気づいていたんですよ。信じることが出来なかっただけで」
「今は信じられるのか?」
「はい。しかし不思議なものですね。人間に両親を殺され、人間に救われて、『人斬り』と呼ばれて、人間に恋をしたんですね」
「でも今は楽しいんだろ?」
「はい! さあ、レン様、料理ができたので早く食べましょう」
マインがこれで話は終わり、とでも言うようにさっさと食卓に向かって座る。
それをレンが笑って追いかけ、対面に座る。
「「いただきます」」
『人斬り』はその生涯を人間によって締められると予想している。
だが、それを『人斬り』は受け入れ、そして楽しむ。
それが『人斬り』だとでも言うように。