第108話 聖剣/第109話 心臓
あれ? タイトルが2つ? 聖剣抜くのに?
と、思った方もいるのだろうか。
確かに、政権抜きに行くまでの道中や、聖剣についての昔話etc。
それだけのネタがあれば1話どころか2話くらいかけそうなものなのだがなんとあの龍はこれを半話にしやがったのよ。せっかくボクが纏めてあげてるのに。
いつもなら盛ろうかなとか考えてるくせにちょうど短い話もあったしくっ付けちゃえ、みたいなことを言って本当に2話をくっつけたよ。
まあ、つまり、普通に読んでも問題ないということだ。
とか長ったらしく言っている間に翼で空を飛んで道中を省略したレンが聖剣のある国に降り立った。
その国は剣神が神々の国に帰る際に最後に立ち寄った聖なる地で、メナール教の中でも特別な人間しか立ち寄れないという場所である。
その国は小さな丘を囲むようにできており、北海道ほどの大きさもない。
そしてその草が生い茂る丘には1本の林檎の木があり、そこにその剣は刺さっていた。
その剣はとても神々しく、まるで生きて意思があるかのような錯覚を覚えるほどのオーラを纏っていた。
その剣の名は神剣イグドラシル。神木から作られたと言われる剣だ。
まあ、他にもあのメタトロンでも抜けなかっただとか勇者なら引き抜けるだとか色々言われてるが、まあ、レンには全くもってどうでもいい。
「さて、あれが聖剣という名の魔剣かな?」
レンが国の入口から聖剣まで約1キロほどを1度の跳躍で移動する。
「さてと、鑑定」
レンが鑑定スキルを使い、魔剣を分析する。
メシア)名称、魔剣グラム、使用者か敵の血液を吸収することによって特定の能力を引き出す吸血スキルを持っています。マインの持っているナイフにも付いているスキルで、マインのナイフは修復(血)ですがグラムは魂喰(血)です。
魂への攻撃なのでマスターへダメージを与えることも出来ます。
「あれ? なんでメシアが答えるんだ?」
うーん、と考え込んでみるが、なんかもうどうで良くなってきたので剣を抜くことにする。
柄に手をかけて上に引き抜こうとするが全く動かない。
「なんだこれ?」
メシア)神聖属性魔法を持っていないと抜けないみたいですね。
「抜けないのなら刺さっているところを壊せばいい」
そんなことを言って恒星で地面を抉り始めた。ドロドロの溶岩になるまで地面をとかし、剣を取り出す。
「よし、これでいいな」
あーあ、相変わらず化け物だなぁ。
ま、それでこそレンだけどね。
そしてグラムを収納して翼を出す。
「それじゃ帰りますか」
小さくぴょんっと飛んでそこから大きく飛翔して家を目指す。
もちろん聖剣が抜けたと大騒ぎなったがそんなことを気にするレンではない。
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ここはグレン魔導国の騎士団長が執務を行っている執務室、すなわちアオイとマインの仕事部屋である。
引き出しが多く、天板も大きな机で2人が書類相手に格闘している。
「あ、そう言えばマイン、ちょっと盗賊潰してきてくれませんか…」
「いいですよ。どこですか?」
「イクラの街の近くで商人を襲っているそうで、騎士が幾人か討伐に向かっているのですが盗賊を捕まえて拷問してもアジトの場所を吐かなくていたちごっこのような状況になっているんです…」
「分かりました。行ってきますね」
そして窓からひょいっと飛び出してイクラの街に向かう。
「せめて玄関から出ていって欲しいんですけどね…」
マインが開け放って行った窓をきちんと閉める。
そしてその時には既にマインは走り去っており、その数十分後にはイクラの街の近くまで来ていた。
「それであなた達がその盗賊とやらですか?」
「あ? 何言ってんだ嬢ちゃん。護衛も付けずに街の外に出たら危ないって教えてもらわなかったのか?」
マインの前には盗賊が数人立っていてその全てが武装している。
もちろんこの程度の雑魚に手間取るマインではないがアジトの場所を聞き出さないとこの辺を自力で捜索することになるのでとてもめんどくさい。
「とりあえずアジトの場所を吐いて貰えますか?」
なので1人を残してみんな殺した。
「は? いったい何が」
ある盗賊は首を無くし赤い噴水を作り、ある盗賊は木に向かって飛ばされ枝がお腹を貫通していたり、などなど見るに堪えない様な残虐な殺し方で殺されている。
だがこの残虐な殺し方には理由がある。
もし苦戦したり、普通の殺し方では恐怖心が煽れず、黙秘され続けるかもしれない。故に恐怖心を煽る殺し方にわざとしたのだ。
「それで吐いてくれますよね?」
もう1人の首筋に剣を押し当て、マインが問う。
が、それでもなお盗賊は口を割らない。元々盗賊とは死刑であり、アジトの位置を喋らない限り、必ず生かされる。それを知っての行為である。
だが、生きていなければ情報を抜き取れないというわけでない。
脳を見たり、過去を見たりする魔法はこの世界に幾つかある。
そしてマインも同じような術を持っている。
「心臓には記憶が宿ります」
「あ?」
「食人『鬼』という種族は人や魔人を食い、その心臓を食らうことで相手の技術や記憶を奪うことが出来るそうです」
「……な、何をする気だ?」
食人「鬼」、吸血「鬼」の始祖である鬼は人間に語る。
「あなたの心臓を喰らえば私もあなたの記憶を覗けるということですよ」
喋らなければ生きていられると思っていた盗賊は今更ながら恐怖を覚える。
見た目に反して残虐で、狡猾で、そして純粋なこの悪魔のような少女に、恐怖を抱く。
「ま、まて、わかった、アジトの場……ぐぽぉえ」
セリフを言い切る前にマインが盗賊の胸に手を差し入れる。
盗賊の口からまるで滝のように血が流れ、しかしマインはそれを気にとめない。
胸腔の中から赤い実を取り出し、その小さな口でジュプリと齧る。
とても赤い汁が溢れ、拳大のその実が小さくなっていく。
そして最後の一口を口に収め、口の周りに付いた汁を手で拭う。
そして未だに身の欠片が口に残っている状態で言葉を紡ぐ。
「ゴミみたいな人生ですね」
盗賊よ安らかに眠れ。