第104話 鬼という種族
「ふう、やっと帰ってこれました」
「熊が予想以上に大きかったからな」
荷車のようなものに獣の死体を乗せ王都まで帰ってきたマインが一息つく。
「そんじゃ俺は新入りをアオイ様の所まで運んで来るな」
「ああ、それじゃ、私は家に帰りますね」
「では」
そう言って副団長が新入りを担いで歩いていく。
それを見届けてからマインがログハウスに向かって駆ける。
が、その途中の開けた場所で突然止まる。
「何故あなたがここに居るのですか? サリア」
「ははは、見つかっちゃったね」
笑うサリアにマインが切りかかる。
その剣はサリアの直前で止まる。
いつもの魔法陣だ。だが止まった剣を支点にして鉄棒の大車輪の要領で魔神に蹴りを入れる。
「やっぱり、サリアって戦闘で魔法を使うことになれてないんですね」
マインの蹴りを防いだのはサリアの篭手付きの右手だ。
「私は魔神だよ。魔法が得意に決まってるじゃないか」
「レン様やアオイはその見た目から魔神だと判断したようですが、私からすればその見た目は魔神ではないんですよ」
「ふーん、なら何に見えるのかな?」
「鬼神、私の種族が崇拝している神です。そして鬼が準神であるなら神であるあなたは鬼神と呼ぶべきものなのでしょう?」
「この角でわかったのかい?」
「ええ、何で魔神を名乗っているのかは分かりませんが」
「ああ、それはね」
額に角を持つ黒き鬼神は言葉を紡ぐ。
「カッコイイからだよ」
「全く理解できませんね」
結局、狂人と厨二病、準神と神では理解し合えないのだろう。
マインが眉の上、額から2本の角を出す。その角は掌で隠せるほどの大きさで桜色をしていた。
人間は脳にストッパーをかけている。それは鬼も同じだ。そしてそのストッパーの役目を果たしているのが角である。
あの角が頭蓋骨にめり込み、脳に刺さり、ストッパーの役目を果たす。
そして必要な時にはその角を頭蓋骨の外に出し、全力を出す。
そして全力を出す準備が出来たマインはゆっくりと剣を構える。
「私は鬼神で魔法よりも近接戦闘の方が得意、それは確かだけどそれは魔法が使えないという訳では無いし、近接戦闘には魔法が使えないという訳でもない」
サリアが右手を前に出すと篭手が消えて片手直剣が現れる。
そして左手には盾が現れ、騎士のような構えをとる。
神を殺すことを許された種族と神として生まれた種族が向き合い、そして殺し合いを始める。
まず動きだしたのはマインだ。
その小さな体に備わったバネを総動員して全力でサリアの元まで跳躍する。
「随分と直線的だね」
「そう見えますか?」
だが突然マインの体が空中で角度を変え、サリアの周りを飛び回る。
まるで部屋の中で戦っているかのように跳躍を繰り返す。
だがここは開けた場所で周りには壁も天井も木もない。
「魔力を固めて足場にしているんだね」
魔王魔法によって辺りに漂わせたその魔力を固めて足場を作る。だがこれだけならサリアにも簡単に対処が可能だ。
「不可視の弾丸」
サリアが剣を振るとその軌跡上に透明な魔力塊が現れる。
そしてもう一度振るとその塊は弾丸となってマインに向かって飛んでいく。
「まさか、見えているのかい?」
「いや、見えてませんよ。ただ場所がわかるだけです」
見るのではなく周りに漂わせた自分の魔力をかき分けて進むものを避ける。
それだけの事だとマインは言っているのだ。
「飛行」
「飛べると思ってるんですか?」
自信に魔法をかけマインのように移動しようとしたサリアだがいつもの数十分の一しか速度が出ないことに驚く。
「空気の粘度操作?」
「よくわかりましたね。今のあなたの周りの空気は水の数倍動きにくいものになっていますよ」
「なるほどね。これが君の『領域』って奴かい?」
「そうですよ」