第101話 再起
不思議な模様が壁を埋めつくしている部屋に1人の女性がいた。
その女性は角を持ち黒いドレスを身にまとっていた。
「ふーん。魔力の循環を利用した凍結封印か。思った以上に簡単だね」
魔法陣のようなものを出して氷の塊を鑑定する。そして壁の模様に目を向ける。
「しかし、これは一体なんなんだろうね」
近づいて見てみるとその正体がわかる。
「文字?」
そこに書いてあったのは「レン様愛しています」という文字だ。
だがひとつではない。
レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています、レン様愛しています
「レン様愛しています」
ただその言葉だけが何千何万もの数を得て壁を埋めつくしているのだ。それは一種の模様と化し、違和感を感じさせないほどに同化している。
「うーん、私が昼寝している5年のうちに随分と面白いことになってたみたいだね。これなら寝ない方が良かったかもだね」
少し自分の行いを後悔するが速攻で気持ちを切り替え、氷を溶かす作業に移る。と言っても簡単なものだ。氷を魔力で覆い、氷の中の魔力循環に干渉し氷を溶かす。大量の魔力を持った魔神には片手間でできるものである。
「よーし、やることはやったし帰ろうかな」
部屋を静かに出ていく。残されたのはまだ意識が戻っていないレンだけだった。
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そこは暗い部屋だった。まるで会議室のように真ん中に丸いテーブルが置かれていてその周りに数人の女性が座っていた。その女性達は頭に角があり、黒いドレスを来ていた。
そして部屋の四方にある窓には全て黒いカーテンがかかり、灯りとなるものはテーブルの上に置いてあるキャンドルだけだ。
「さて、クレナイさんも起こしたし、こんどはどんなちょっかいをかけるかの会議を始めるよ。いつも通りサリアΣが司会進行をするからね」
「というかさぁ。なんで毎回Σが司会やってるんだ?」
「サリアα、それはそいつが最初に司会をやったものだからだよ」
「いや待ってくれないかサリアβ。最初に誰がやろうと次の人までそいつじゃなくてはいけないなんてルールはないと思わないかい?」
話が脱線していく。
「確かにそれもそうだな」
「それにあの子だけ文字が飛んでいるんだよね」
「ああ、確かにα、β、γ、δ、飛んでΣ、だからね」
えーと、最初のがサリアβで、次がサリアα、最後のがサリアγかな?
見た目や口調が同じだからわかりにくい!
「なんで君だけそんなかっこいい名前なのかな?」サリアα
「私がかっこいいからだと思う」サリアΣ
「見た目が同じなんだからかっこよさはみんな同じじゃないのかい?」サリアδ
これでわかりやすいな。
「というかなんでみんな同じ性格なんだい?」サリアβ
「確かに普通なら良心や理性とかでわけられるね」サリアδ
「これ以外の感情がないからじゃないかな?」サリアα
「ふむ、その可能性はあるね」サリアγ
司会という札を机の上に置いたサリアが手をテーブルにバンッと置く。
「さて、気を取り直してクレナイさんにちょっかいをかける方法の話し合いを始めるよ。まずはこんな私たちにアドバイスをくれた方がいるようなのでその方法も取り入れていこうと思う。まずは1人目、ペンネーム龍鳴 竜さん、『レンくんの国に隕石落として滅ぼしちゃえば?』との事だね。うん、面白そうだし採用しちゃおう」サリアα
黒ドレスの女性がホワイトボードに書き込んでいく。
「2通目はペンネーム、時無あかねさんだね。『僕らの創設活動日記』という作品を書いてる人だね。えーと『人参の雨をふらせて国を潰したらどうだ?』。ふむ、なんで人参なのかわからないけど異常気象ってのはいいね」サリアβ
「3通目はペンネーム、田山海斗さんだね。『糸玉異能力探偵事務所』を建てた人だね。『悪夢を見せて精神と体力を同時に削る』おお、魔神っぽいじゃん」サリアγ
「それも書き込んどくね」サリアδ
サリアδがホワイトボードに書き込んでいくが途中で何かを思い出す。
「そういえばもう一通来てたよ」サリアδ
「どんなの?」サリアγ
「ペンネーム、するめいかさん、『勇者はただの村人のようだ』の人だね。『相手の嫌いな生き物をプレゼントする』なんか好きな女の子と仲良くしたいけど方法がわからないからとりあえず虫捕まえてくる男の子みたいだね」サリアδ
「というかクレナイさんの嫌いな生き物って何なんだろう?」サリアα
サリア達が一瞬考え込む。だが本当に一瞬だ。
「私だね」サリアΣ
「そうなるよね」サリアα
「でも私がクレナイさんに会いに行くのかい?」サリアβ
「いや、ヘルを送り付けてもいいんじゃないかな?」サリアδ
「そうだね。ヘルを送り付けようか」サリアγ
「サリア、そろそろご飯にするか?」
「そうだね。今日もステーキにしようか」
「もちろん私が作るぞ」
「姉様も休んで私に任してくれたらいいのに」
「不味いものは食いたくない主義でね」
「……食いたい主義なんてないと思うよ」
さて、気がついている人もいるかもしれないが、あの黒い会議室はサリアの頭の中にある。
サリアが多重人格だとか並列計算できるとか、そんなことはボクには全く関係ない。だけどなんでも知りたがる人間達は知りたがるだろうから言っておく。
人間如きには知らない方がいいこともあるんだよ。