第99話 魔王勇者の─
その結果としてレンが苦戦しているのだ。
そしてさらに動きが起こる。
「──っ! 足が!」
レンの足の表面がまるで雨が降ったあとの地面にように割れたのだ。
「まさか凍らせたのか?」
まさしくその通りである。マインが移動中に撒き散らしている魔力、それをレンの足に纏わせてレンから体温を奪う。その結果、レンの足が表面から凍りついてきたのだ。もちろんヒビが入ったからと言ってレンの動きが止まるわけがない。即座にヒビがつながりまた動き出す。
「っ、ファイャーボール」
小さな火の玉を出して凍りかけた足を溶かす。だが周りの木々に燃え移らないように火力を下げられた火の玉では追いつかない。
「く、そ」
今のレンは最初ほどよく動けてはいない。体温を奪われたことによって動きが遅くなり、また体温を奪われる。
レンはマインと違い血液を多く流したり、筋肉を振るわせて熱を作り出すことが出来ない。
LvMAXまで成長させられた痛覚耐性を持っているレンは冷たさや熱さにも鈍い、それも影響しただろう。
その結果として訪れるものは誰にでも予想できるものだ。
「凍る。いくらレン様が化け物だったとしても凍ってしまう」
レンだけではなく周りの水分も凍りつき、レンの周りに集まり、氷の塊が完成する。
もし名付けるとしたら『氷の棺桶』と名付けるべきだろう。
しかし凍った状態でもレンの表情は笑顔のままだ。
「1……2……」
マインが両手の指を総動員して10秒数える。
「9……10、さて、10秒終わりました。これで私の勝ちですね」
バンザーイバンザーイとマインが両手を上げて喜ぶ。
「さて、レン様。私はレン様と会えて幸せでした」
突然マインが手を下ろし、凍りついたレンにそう言った。
「王城で会い、初めて一緒に来たのがここでしたね。レン様と一緒に殺し合ってとても楽しかったです」
氷が溶けないように魔力の霧で覆い、さらに冷やしていく。
「あの時のレン様は旅人さんのように強くて、正直どれだけ頑張っても勝てないと思ってました。どれだけ傷を受けてもすぐに治って。スライムの一種なのかと思いました」
しゃがみこんで凍ったレンの顔をのぞき込む。
「次に行ったのはラクアの街であの時には収納の中を見せてくれましたね。魔法陣の中に地面があって畑があって。レン様の素晴らしさをまた一つ知りました」
レンが撒き散らした血の匂いに反応したのか肉食の動物達が警戒しながらジリジリと近づいてくるが、マインの投げた木の枝によって絶命する。
「その次に行ったのは岩山でしたね。そこに行くまでに立ち寄った森でレン様が作った屋敷に一緒に泊まりましたね。男女が同じ屋根の下で過ごすのに何のイベントもなくて少し拍子抜けしちゃいました。その後も拾った奴隷の体を洗ったりと私の常識からかけ外れたことをしてましたね」
その時のことをおもいだしたのかクスクスと小さく笑う。
「そして岩山で狩りをしてイクラの街に行きましたね。そこでナイナを買いましたね」
思い出話を語る。だがレンの前で語るマインは
「ナイナの体を使った武器を作ったりして過ごしてましたね」
別れの直前のように少し悲しそうで
「その後は魔の森に行ってそこでレン様が突然魔王になったと言って女神と対立するようになりましたね」
そして少し嬉しそうだった。
「そして女神と殺し合い、そして神を殺しましたね。あの時のレン様はとてもかっこよかったです」
マインが手を地面について立ち上がる。
「そしてその後もとても楽しい思い出が沢山出来ました。憎しみに殺し、快楽に殺していた『人斬り』時代とは違う楽しさでした」
そして戦っている時に付いた土を払うためかスカートをパンパンと叩く。
「そして殺す方法もきちんと考えてきました」
いつものようにスカートの中から県を取り出す。だがいつもの黒い剣ではない。冷気を帯び、霜を振り撒き、青く透き通った水晶のような剣だ。
「10秒間動けなくなったら負け。そう決めましたが殺す方法が思いついた上での前回と同じ場所での殺し合い。それを後付け程度のルールが決める勝敗で終わらせはしません。きちんと殺して終わりにします」
青く透き通った剣を両手で握り上に持ち上げる。
「以前の戦闘はあくまで休戦状態で終わってはいません」
そして逆手で剣を持ち剣先を下に向ける。
「だから前と同じように終わらせますね」
マインが剣をレンの心臓目がけて振り下ろす。剣は深々と突き刺さりレンの体を地面へと縫い付ける。
「勇者様、───────」