初クエスト
な、なんとか・・書ききった・・ぜ・・。がくっ・・。
今回は途中でルルーシュ視点もはさみます。
追記:皆様のお陰でジャンル別日刊ランキング9位達成!トップ10ですよ!?もう嬉しすぎて天にも昇りそうな気分ですよ!
地面から少し浮いている人がいたら、それはきっと私なので見つけたらそっと上から押さえつけてください。
入学試験から数ヶ月が経過しました。魔法学校の授業は、魔法が使えない私にとってはなかなかに大変なモノもあります。例えば、魔力の塊を放出し的に当てる授業などがそれに当たります。しかし、私は何とか魔法が使えないことはバレずにやって行けています。
その授業の時には、私は魔力を集めるフリをして空気を圧縮、それを撃ち出すことで乗り切ることができました。本当に、お父様の助言通りに身体を鍛えていて良かったです!
ただ、魔水晶に手を当てて魔力測定をすることになった時には、流石にバレてしまうかと思いました。しかし、その時は私の影の中に潜んでいたゼル君がこっそり魔力を魔水晶に注いでくれたおかげでそのピンチを乗り切ることが出来ました。勿論、ゼル君には後でお礼としてプリンを作ってあげましたよ。ゼル君は顔は怖いくせに、甘い物が大好きなんです。意外に可愛いところありますよね?
まあ、このように、授業においては今のところ全く問題はありません。しかし・・無視できない問題が一つ存在します。
「師匠!!今日も最高に格好いいですね!!イエーイ!!!」
「ミカルダ様、今日も元気ですね・・。」
・・そう、最近の私の悩みはこの彼、騎士団長の息子のミカルダ・サンシャインが私のことを師匠と仰ぎ、ことあるごとに褒め称えてくることです。
きっかけは、一ヶ月前に行われた模擬戦でミカルダ様と私が偶然対戦することになった時のことです。Sクラスの中でも屈指の実力を誇るミカルダ様との対戦とあって、私もいつもより気合いを入れて模擬戦に望みました。
ミカルダ様の音魔法は、全方位から襲いかかる圧倒的なパワーと爆発力が最大の武器です。魔法による結界を貼ることが出来ない私にとっては、避けることが出来ないミカルダ様の魔法は驚異的なモノでした。
そこで、私が考えた策は、ミカルダ様の音魔法に負けないくらいの大声を出して相殺するというモノでした。私、大声にはかなりの自信がありましたから。実際、魔法学園に通う前、修行をしていた山から数キロ離れたスパルタン家の屋敷まで、大声で今日の晩ご飯のメニューなど尋ねることなど日常茶飯事でしたし。ちなみに、お母様は毎回風魔法を使って自分の声を私まで届けてくださいました。流石お母様、魔法の使い方が上手いです!!
そして、私が全力を出した結果、ミカルダ様の音魔法の相殺に見事成功・・どころか完全に上回り、私はその一撃で見事ミカルダ様を倒したのです。
さて、問題はここからでした。私の声の衝撃派で気絶していたミカルダ様でしたが、目が覚めるなり私に弟子入りを申し込んできたのです。彼曰く、
『私はサンシャイン家の中でも一番の音魔法の使い手だと自負しておりました・・。しかぁし!!私など井の中の蛙、象の背の上のノミ、宇宙の鼻くそであることを今日のアンジェリカ殿との対戦で思い知らされましたのです!!是非、このミカルダ・サンシャインを、貴女の弟子にしてください!!イエエエエエエイ!!!』
・・とのことです。とても、いや、これは音魔法ではなく、ただ大声で叫んでいるだけです・・。と正直に言えるわけもなく、しかもミカルダ様は最終的には土下座をしてまで「イエエエエイ!!」と弟子入りを懇願してきたので、根負けして弟子入りを許可してしまったのです。
それ以来、私は時々ミカルダ様と一緒に訓練をするようになりました。音魔法を使えない自分に、師匠などつとまるのかと最初は不安でしたが、困った時は「イエエエイ!!」と叫べばだいたい納得してくれたので、思ったより大変ではありませんでした。
そうは言っても、師匠と皆の前で呼ばれるのは恥ずかしいので、ミカルダ様には以前から呼び方を変えるよう頼んでいるのですが、「師匠は師匠ですから!!」と全く呼び方を改める気配がありません。・・最近は呼び方に関してはもう諦めました。
「ところで師匠!!明日の臨時授業、『魔物討伐クエスト』の班分けはもう決めておりますか?もしまだ決めて居ないなら、私とイエーイしてくれませんか?」
ミカルダ様が言う『魔物討伐クエスト』とは、一年生の時に全員必ず行うことになっている実技試験の一つです。その内容とは、学校の所有地である山に入り、三人から四人の班で協力して魔物を討伐するというモノ。強い魔物を倒すほど高得点がもらえますが、その分危険も高いです。まあ、山には試験官の先生方が監視役として数人おられるため、これまで死者が出たことはないようですが。
ミカルダ様は、どうやら私にそのクエストで同じ班になってほしいと言っているようです。サンシャイン家独特の言い回しにも最近慣れてきた私は、特に断る理由もないので笑顔で彼の誘いに答えました。
「同じ班員になりたいということですね?勿論いいですよ。」
「イエ----イ!!!師匠と同じ班なら心強いことこの上ないです!!今ならドラゴンも倒せる気がしますよ!!」
「あ、言い忘れてましたが私の班には既に一人・・」
「こんにちは、ミカルダ・サンシャイン。僕の婚約者に何か用があるのかい?」
その時、柑橘系の爽やかな香りと共に、私の肩に手を置く者が一人。彼・・この国の第一王子であり、私の婚約者でもあるアズリエル・ルミエールは、爽やかな笑みを浮かべミカルダ様にそう話しかけます。しかし、心なしかその目は笑っていないような・・。
「おお!!アズリエル殿ではないですか!!・・ということは、貴方様も師匠の班に?」
「僕は君が班に入ることを許可した覚えはないんだけれどねー。」
「え?アズリエル様、駄目なのですか?」
「いいや!?アンジーがいいっていうなら勿論OKだよ!!よろしくね、ミカルダ君!!」
「おお!!こちらこそよろしくですぞ!!イエ----イ!!!・・あ、ちょっとアズリエル様握手の力強い・・痛い、痛いですぞぉぉぉ!!」
どうやらアズリエル様とミカルダ様はこの一瞬でかなり仲良くなられたようです。今も二人で力強い握手を交わしています。これが男同士の友情というものですか・・少しうらやましいです!!
さて・・これで私たちの班は明日のクエストの班に必要な最低人数である三人になったわけですが、ここで、思いがけない人物が私たちに声をかけてきました。
「・・よろしければ、その班、私もメンバーに加えてくれませんか?私、まだ班が決まっていなくて・・。」
「る、ルルーシュさん!?」
そう、なんと私たちに声をかけてきたのは『聖女伝説2』のヒロイン、ルルーシュ・ポルカその人だったのです!!
彼女にはこれまで何度か話しかけようとしたのですがその度に目線を背けられてしまい・・もしかして嫌われているのでは?と思うこともありましたが、こうして班に加わりたいと言ってくれたということは私の勘違いだったということですね!!良かったー・・私、ゲームの時からルルーシュのファンだったので、ずっと友達になりたいとは思っていたんですよ。入学試験の時も私のことを応援してくれてやっぱり可愛いなって再確認しましたし。
私は、喜んで「勿論!!」と彼女が班に入ることを承諾しようとしたのですが、何故か口をアズリエル様の手によってふさがれてしまい、「もごごん!?」と変な声が漏れただけになってしまいました。
「・・ルルーシュ・ポルカ。君は確か、アンジーのことを避けていたと思うんだけれど、どういう風の吹き回しだい?」
アズリエル様はそう言うとルルーシュに冷たい視線を投げかけます。理由は分かりませんが、アズリエル様はどうもルルーシュ様にあまりいい印象を抱いていないようなのです。うーん、ゲームだとアズリエル様は最初からルルーシュに対してある程度高い好感度を持っていた気がするのですが、ここら辺はゲームとアズリエル様の性格が違うことも影響しているのでしょうか?
そして、アズリエル様にそう問いかけられたルルーシュですが、彼女は自分に向けられた視線に一瞬ビクッと身を震わせた後、上目遣いでアズリエル様を見上げました。
「そんな・・私にそんなつもりは・・。私はアンジェリカ様に話しかけようとしているのですが、アンジェリカ様がいつも私を避けられるのです。」
え!?そうだったんですか!?全く気付きませんでした・・。それは悪いことをしてしまいました・・。
とっさに私はルルーシュに謝ろうとしましたが、またしてもアズリエル様に口をふさがれてしまいます。
「・・ふーん。僕は毎日アンジーのことを見ている自信があるんだけれど、アンジーが誰かを避けるなんてとこを一度も見たことはないよ。」
「アズリエル様は私の言葉を信じてくださらないのですか!?」
「僕はただ、アンジーのことを信じているだけだ。アンジーの言葉に比べれば、君のその嘘ばかりの言葉なんて聞く価値すらないね。」
な、なんだか不穏な空気になってきました・・。私はルルーシュと一緒の班になりたいと思っているのですが・・。ど、どうしたらいいでしょうか?
「むむむ・・先程から全く会話についていけていないのですが・・とりあえず、ルルーシュ殿も私たちの班に加わるということでよろしいですかな?」
み、ミカルダ様ーー!!全く空気を読まないそのスタイル、大変心強いです!!ミカルダ様のその発言に、ルルーシュは目を輝かせ、「わあ!!班に入れてくださるのですね!!ありがとうございます!!」と言い、ミカルダ様の手を握り上下にブンブンと揺らします。何とも可愛らしく嬉しさを表現するルルーシュに、見ているこちらまで嬉しくなってきました。
「ミカルダ・・君、後で僕の部屋に来てくれる?・・いろいろと言いたいことがあるから。」
「ほう?勿論いいですぞ!!男同士の語らいですな!!」
・・アズリエル様、顔が全く笑っていないのですが、ミカルダ様に何もしないでくださいね?
その日の夜のことです。私は、寮の自室でゼル君相手に今日あった出来事を全て話しました。私にとっては嬉しい報告だったのですが、話を聞いたゼル君は何故か顔をしかめます。
「アンジェリカ様・・。下僕の分際で差し出がましいことは承知の上で申し上げますが、私はあのルルーシュという女を信用できません。」
「むむ・・アズリエル様もゼル君も、なんでルルーシュをそんなに悪く言うのですか?彼女はヒロインですよ?」
「それは確か、前にアンジェリカ様が仰っていた『ゲーム』の話ですよね。我が主の言葉を疑うわけではありませぬが・・あの女が本当にヒロインなのですか?私にはどうも納得出来ません。」
その時、突然私の部屋のドアをトン、トンとノックする音が聞こえ、私は慌ててゼル君に影の中に隠れるよう命じます。
ドアを開けた私の目の前に現れたのは、なんと先程まで噂していたルルーシュでした。ルルーシュは、その手に白いフリルのついた小さな籠を持っています。彼女は、私の姿を確認すると、にっこりと微笑んでその籠を私に差し出しました。
「あの・・良かったら、これ一枚どうですか?友達になれた記念に、クッキー焼いてきたんです。」
「く、クッキーですか!?私、クッキー大好きなんです!!・・あ、この場で食べても?」
ルルーシュが勿論!!と言ってくれたので、私は早速籠からクッキーを一枚取り出し、ぱくっとほおばります。
いやー、それにしても、ルルーシュは私のことちゃんと友達だと思っていてくれたんですね。アズリエル様とゼル君はあんなこと言ってますけれど、やはりヒロインは良い子です!
このクッキーも本当に美味し・・あれ?なんかめまいが・・。
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私の目の前では、あのいけ好かないアンジェリカ・スパルタンが倒れている。流石のこいつでも、毒は効くらしい。
「その毒は毒魔法が得意な男子に頼んで作らせたオリジナルの毒・・解毒剤は存在しないわ。あんたにはお似合いの惨めな死に様ね。」
あれから何度もアズリエル様に気に入られるようアプローチをかけた。しかし、ゲームだと必ず好感度が上がる台詞を囁いても、アズリエル様は私のことを全く好きになってくれない。
それどころか、ヒロインの引き立て役に過ぎないこんな奴のことばかり見ているなんて!!
しかも、あの女、いつの間にかミカルダ・サンシャインまで手なずけているじゃないの!!同時に二人の男にアプローチをかけるとか、本当にビッチだわ!!アズリエル様はこんなビッチのどこがいいのかしら?
・・まあ、もういいわ。どうせこの女は死ぬんだし。勝負は、明日の討伐クエストよ。ここで好感度を稼いで、絶対にアズリエル様とくっついてみせるんだから!!
この時、鼻息荒く自分の部屋へと戻るルルーシュは気付いていなかった。地面に倒れるアンジェリカ。彼女の影が、怪しくゆらりとうごめいたことに・・。
ルルーシュは、決して怒らせてはいけない男を怒らせてしまったのであった。その男の名は、ゼルフォート・アビス。かつて魔王を名乗っていた者であり、『聖女伝説2』における正真正銘の・・ラスボスである。
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私は、激しい倦怠感と共に目を覚ましました。
「あれ?私はいつベッドに入ったんでしたっけ・・?なんだか記憶が曖昧です。確か、ルルーシュから貰ったクッキーを食べて、それから・・。」
ベッドから起き上がった私は、テーブルの上に一枚の紙が置いてあるのを見つけました。その紙に書かれた文字を見た私は、思わず目を丸くします。
そこには、見覚えのある整った文字でこう記されていました。
『ルルーシュ・ポルカは貴女様に毒を盛りました。貴女様の身体に入った毒は私の魔法で完全に取り除きましたが、私の胸にたぎるこの怒りはとても鎮められそうにありません。もし貴女様に話せば、必ず止められると思い、こうして手紙に記させて頂きました。下僕の分際で勝手に動く罪をどうかお赦しください。』
「た、大変です・・!!このままでは、ルルーシュが殺されてしまいます・・!!」
私は、慌てて部屋を飛び出そうとしましたが、どうやら外から強力な結界が張られているらしく、ドアはビクとも動きません。
「な、何のこれしきぃぃ・・・。でやああああ!!!!」
そこで私は、気合いの雄叫びを上げることで身体の倦怠感を吹き飛ばし、渾身の正拳突きで結界ごとドアを破壊しました。そして、そのまま全速力で駆け出します。
ゼル君、どうか早まらないで!!私は、誰も殺したくはないのです!!
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試験開始時間になっても、アンジェリカ・スパルタンは集合場所に現れなかった。まあ、私が毒を盛ったので当然だが。
しかし、アズリエル様もミカルダも全く動こうととしないのがイライラする。あんな女のことなんかさっさとおいて試験に行けばいいのに、何でそんなにあの女のことを気にするの?
試験開始から十分が経過したところで、試験官の先生に促されようやくアズリエル様とミカルダは試験に向かう気になったようだ。全く・・これでもし時間オーバーにでもなったりしたら、全部あの女のせいなんだから!!
「しかし、師匠はいったいどうしたのでしょうか・・?師匠は確かこれまで一度も授業を欠席したことなどなかったと記憶しているのですが・・。」
「・・ふーん、ミカルダ、君、アンジーのことよく見てるんだね?」
「で、弟子として師匠の行動を観察するのは当たり前ですから!!決して師匠に対し懸想をしているとかそういうことはなくですね・・。で、ですから昨日のようなことはしないでください!!」
「・・まあ、今はそのことはいいや。」
アズリエル様が、不意に私の方を向く。その瞳には、隠しきれない疑いの色が見えた。・・まさか、バレてないわよね?
「ルルーシュ・ポルカ・・。お前、アンジーが来なかった件について、何か知らないか?」
「いえ、私は何も・・アンジェリカ様、どうされたのでしょうか・・。心配です・・。」
とりあえず、心配する演技でごまかすことにする。それでもなお、アズリエル様の目から疑いの色は消えない。
もう!!何でアズリエル様にこんな目で見られなくちゃならないの!?私は、『聖女伝説2』のヒロインなのよ!?貴方たちは攻略対象者なんだから、とっとと攻略されなさいよ!!
それから、これといった会話もないまま、私たちは魔物のいる山へ入っていった。いや、私は話しかけているのだが、アズリエル様が全く返事をしてくれないから、会話が続かないのだ。ミカルダ?あんなネタキャラには話しかける意味もないわ。私が狙うのはアズリエル様唯一人。
そもそも、私が『聖女伝説2』を始めた理由はこのアズリエル様が居たからだもの。ゲームのパッケージを見て彼の姿に一目惚れした私は、アズリエル様のルートだけ何周も繰り返し、アズリエル様関連のイベントは台詞も含めて全て暗記している。
前世で三十路前のOLだった私は、親からは結婚しろしろと五月蠅く言われていたけれど、私にはアズリエル様がいればそれで十分で、結婚なんて考えたことがなかった。
そんな私は、ある日起きた地震によって落ちてきた鉄骨の下敷きになって死んだはずだった。
しかし、次に目を覚ました時、私はまだ言葉も喋れない赤ちゃんになっていた。この世界が『聖女伝説2』の世界であると気付いたのは、三歳の時だ。
『聖女伝説2』のヒロイン、ルルーシュ・ポルカに転生したことを知った私は、前世では全く信じていなかった神に感謝を捧げた。妄想でしかなかったアズリエル様との結婚の日々・・それが現実になる時が来たのだ!!
それなのに・・いざ魔法学校に入学してみれば、アズリエル様はあのアンジェリカ・スパルタンしか見ていないし、しかも何か身長も若干低いし性格も違う。
それでも、顔だけはゲームのままだったから、私がアズリエル様狙いを変えることはなかった。
今でもアズリエル様と結ばれることしか考えていない。確かに、さっきからまともな会話は出来ていないが、クエストで協力して魔物を倒せば、一気に好感度を稼げるはず・・!!
そう私が決意を新たにしたその時、背後から恐ろしいまでの殺気を感じ、私は体中に鳥肌が立つのを感じた。それは、私だけではなかったようで、アズリエル様もミカルダも一斉にはっとした表情で後ろを振り返る。
私は、信じられないモノを見た思いだった。何で・・?何でこいつがこんなところにいるのよ!?
「ルルーシュ・ポルカ・・。貴様は、この俺が殺してやる・・!!我が主、アンジェリカ・スパルタンに毒を盛ったその罪を、地獄で悔いるとよい!!」
そこに居たのは、ラストシーンで登場するはずのラスボス・・魔王、ゼルフォート・アビスだった。あの黒い髪に、赤い瞳・・。このゲームで黒髪はゼルフォートしかいないから間違いようもない。そのラズボスが、今殺気をむき出しにして目の前に立っていた。
(どうしてラスボスがこんなところにいるのよ!?まだ卒業式までは二年もあるのよ!?今のレベルじゃあ、とうていこいつに勝てるはずもないわ!!)
このあまりにも絶望的な状況に、顔を真っ青にするルルーシュ。しかし、アズリエルとミカルダはゼルフォートが言ったある言葉に反応していた。
「・・今、なんて言ったか?こいつが、アンジーに毒を盛ったと・・そう言ったのか?」
「ああ、そう言った。この女は、あろうことか我が主に毒を盛ったのだ。とても赦されることではない。」
「し、師匠は・・?師匠は無事なのですか!?」
「私が主に毒を盛られてそのままにしておく訳がなかろう。安心しろ。我が主、アンジェリカ・スパルタンは無事だ。」
ゼルフォートの言葉にほっと胸をなで下ろすミカルダ。ゼルフォートは、その反応に、ミカルダに対する評価を若干改める。こいつは馬鹿だが、主のことを大切に思っている。その気持ちだけは認めよう。ただし、主へプロポーズなどした時には全力で阻止してみせるが。
さて・・と、ゼルフォートは男たちが会話している隙に逃げようとしていたルルーシュに視線を向ける。それだけで、ルルーシュは全く動けなくなってしまった。
「逃げようとしても無駄だ。魔王から逃げられるとでも思っているのか?お前に待つのは・・”死”のみだ。」
ルルーシュは、何やら泣き喚きながら命乞いをしているようだが、そんなの魔王には通用しない。ゼルフォートは、自身の魔法、『闇魔法レベル10』の魔力により造り上げた鎌をゆっくりと振り上げた。
しかし、その鎌がルルーシュの首をはねる寸前、彗星のように現れた何者かがゼルフォートの前に立ちふさがると、鎌を真剣白刃取りの容量で受け止め、目を見開くゼルフォートにこう叫んだ。
「ゼル君!!『お座り』!!」
直後、ゼルフォートは頭部に強い衝撃を受け、地面にめり込んだのであった。
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はあ、はあ・・な、何とか、ゼル君を止めることが出来ました。後一瞬遅れていたらどうなっていたかと思うと・・ぞっとします。
「あ、アンジェリカ様・・。まさかこんなにも早く追いつかれてしまうとは・・。」
ゼル君は目を丸くして私を見上げます。その後、私の目を見たゼル君は、「・・怒っていますよね。当然です。私は下僕失格・・赦されないことをしました。申し訳ありません。」と謝りました。
ええ、勿論怒っています。いくら私のためとはいえ、流石にこれはやり過ぎです。・・ゼル君は、後でおやつ抜きの刑ですから。覚悟していてくださいね。
さて・・私は、私に毒を盛った犯人である、ルルーシュを正面から見つめます。ルルーシュは、きっ!と悔しそうな目で私を睨み付け、こう叫びました。
「何よ!!いつまでも良い子ちゃんぶってるんじゃないわよ!!私のことが憎いんでしょう?だったらさっさと殺せばいいじゃない!!」
私は、ルルーシュの言葉はあえて無視して、彼女に向かって手袋を投げつけ、こう言いました。
「ルルーシュさん・・私と、決闘をいたしませんか?」
私の言葉が予想外だったのか、ルルーシュはぽかんとした表情で「・・は?」と呟きます。
「私、お父様に教えて貰ったんです。どんなに仲が悪い人同士でも、拳で語り合えば友人になれると。私は、貴女と友達になりたい。・・だから、この決闘、受けてくれませんか?」
私がそう言うと、ルルーシュは、理解しがたいモノを見るような目で私を見ました。
「あんた、正気?私は、あんたを殺そうとしたのよ・・。そんな奴と友達になりたいなんて・・あんた、頭おかしいんじゃないの!?」
・・確かに、自分でもおかしな行動だとは分かっています。それでも・・
「・・私、『聖女伝説2』のヒロイン、ルルーシュ・ポルカの大ファンなんです。大好きな人と友達になりたいと思うのは、そんなにおかしなことでしょうか?」
それでも、私は、『聖女伝説2』というゲームが・・そして、そのヒロインのルルーシュ・ポルカが大好きだから・・。だから、どうしても彼女と友達になってみたいのです。
「・・!?まさか、あんたも私と同じ・・!?」
この反応、どうやら彼女も私と同じ、転生者だったみたいですね。それなら、なおさら友達になりたいです。今度、私の両親も交えてゆっくり『聖女伝説2』について語り合いましょう?
そして、アズリエル様が審判を務め、私とルルーシュの決闘が始まりました。決着は一瞬でつきました。
ルルーシュの放った聖魔法最強の魔法、『天使たちの鎮魂歌』に対し、私は全力の正拳突きでその魔法を相殺。直後、高速移動でルルーシュの懐に潜り込み、その頬にビンタをかまし、私は見事決闘に勝利したのでした。
この時、あえてビンタにしたのは、ルルーシュが毒を盛ったことに対する一応の罰は与えた方がいいだろうと思いそうしたのですが、この時の私はまだ、このビンタがどんな事態を生むのか想像すらしていなかったのです・・。
翌日、いつものように学校に登校した私。昨日の試験については、ルルーシュが素直に自分の罪を試験官の先生に話したことで、後日改めてもう一度試験を受けることが出来るようになりました。しかし、ルルーシュは罰として一年間魔法を使うことを禁じられてしまいました。まあ、これは仕方ないですね。一応、彼女がしたことは殺人未遂ですし。彼女への罰がこの程度で済んだのは、被害者である私がもうルルーシュを許していたからだそうで、そうでなければもっと重い罪になっていたそうです。
さて、そのルルーシュですが、今何をしているかというと・・何故か、私の目の前で四つん這いになっています。
「私、あの時のビンタで目覚めたのです・・!!アンジェリカ様のその美しさ、そして何よりもその力強さに!!是非、この私を貴女様の犬にしてくださいませ!!」
・・あれ?私、ルルーシュと友達になりたかっただけなのですけれど、どうやら彼女の開いてはいけない扉を開いてしまったようです。そしてゼル君。貴方、ペットの座を奪われる心配とかしなくていいですから!!私は、ルルーシュと友達になりたいのですぅぅ!!!!
何かこれで終わりでもいい気もしてきたけれど、まだ続きます。
次回は、アンジェリカたちが二年生に進級。武闘大会の開催です。
アズリエルの弟、第二王子のガイアス・ルミエールが登場しますよー。