入学試験
二話完結できませんでした!すいません・・。
何とか五話くらいで完結を目指すことにします。
それに伴い各話のタイトルも、『前編』→『プロローグ』に変更いたします。
今回のタイトルは『入学試験』。
その後『初クエスト』、『武闘大会』、『卒業式』と続いていく予定です。
追記:皆様のおかげでジャンル別日刊ランキング42位に入賞しました!ありがとうございます!
ついにこの日がやってきました。そう、私が魔法学校に入学する日です!!私はスパルタン家の馬車の中で、ペットのワンコ、ゼルフォード・アビス君、略してゼル君の頭を撫でて心を落ち着かせます。
やがて、馬車は止まり、私はゼル君にエスコートして貰って馬車を降りました。
「ふふっ。ありがとうございます。ゼル君。」
「何のこれしき。主の下僕としては当たり前のことだワン。」
私は、ゼル君の首にリードを付け、魔法学校の入り口の門へと歩き出します。スパルタン家の令嬢として恥ずかしくないよう、お母様に教わった優雅な歩き方で、一歩一歩進みます。
・・なんだか周りの人たちの目線が私に向いている気がします。な、何かおかしいところでもあるのでしょうか?ちょっと不安になってきました。
若干の不安を抱えつつも、私はそれを表情には出さないように努めます。あくまでも堂々と!!令嬢らしく!!
しかし、門をくぐろうとしたところで、門番のおじさんに「ちょ、ちょっと待ってください!」と止められてしまいました。
あわわ、やっぱり何か問題があったのでしょうか!?他の方は何事もなく門をくぐって学園の敷地へと足を踏み入れているというのに、私だけ呼び止められてしまうなんて・・。うう、幸先悪いです。
「スパルタン家のご令嬢に対し、失礼とは存じ上げますが、その上で一つお尋ねいたします。・・貴女様が連れているそこの彼は・・一体何者でしょうか?」
「ああ、ゼルフォートのことですね。彼は、私のペットです。魔法学園は確かペットを連れてきてもいいと聞いていたのですが・・。」
「ぺ、ペットでございますか?」
門番のおじさんはまだ納得出来ていない様子なので、私はゼル君にちらっと視線を向けて、『お願い!!何とか説得して!!』とメッセージを送ります。
私のメッセージを的確に受け取ったゼル君は、四つん這いの体勢から立ち上がると、門番のおじさんに対して優雅に一礼した後自己紹介しました。
「お初にお目にかかりますワン。私、本名をゼルフォート・アビスと申す者。恥ずかしながら数年前まで魔王をやっておりましたが、アンジェリカ様に打ち倒された今、私は唯の忠実な下僕でございますワン。以後、お見知りおきを。」
そう、私は数年前、山で魔物相手に修行をしていた際、うっかり魔物の国の境界線を越えてしまい、そこでゼル君に出会ったのです。
闇よりも黒い漆黒の髪に、血よりも紅いその瞳・・。その姿は、私がゲームで見た魔王のビジュアルそのものでした。
ゼル君は、その真っ赤な瞳に怒りを燃えたぎらせて私を睨み付けてきました。・・まあ、私修行でいっぱい魔物を倒しちゃっているから当然ですね、これは。
そして、そのまま、私とゼル君の死闘は始まりました。戦いは三日三晩続き・・ついに、私はゼル君を倒しました。
・・訂正します。ラストシーンでヒロインが倒す予定の魔王を私、倒してしまいました。
そこからは、ゼル君が語った通りです。「私の強さに惚れた」という理由でゼル君はオレをお前のペットにしてくれ!などと言い始めました。
困った私がお父様とお母様に相談したところ、「魔王を倒して、しかも魔王をペットにしてしまうとは、流石自慢の娘だ!!」ととても喜んでくれました。そんな両親の反応が嬉しくて、私はついゼル君がペットになることを許可してしまったのです。
最近ではすっかりゼル君がペットだということに違和感を感じなくなっていましたが・・。やはり、ペットではなく従者として同行させた方が良かったのでしょうか?
私は、気を失って倒れてしまった門番のおじさんに心の中で謝りながら、ようやく門をくぐることに成功したのでした。
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魔法学校に入学した生徒たちは、初めにクラス分けのためのテストを受けます。そのテストの結果によって、Sクラス、Aクラス、Bクラス、Cクラス、Dクラスの五つのクラスに分けられるのです。
このクラス分けは、単純に能力によって決められるため、身分の低い者にもSクラスになれるチャンスは十分にあるのですが、貴族としての位が高いほど魔法の適性も高い、というのがこの世界の常識です。
実際、私の婚約者である第一王子のアズリエル・ルミエール様は、『光魔法レベル9』の適正の持ち主だと以前自慢げに語ってくださりました。
婚約者であるアズリエル様とは、恐らくゲームよりは良好な関係を築けているのではないかと思います。初めて顔を合わせたのは私が八歳、アズリエル様が九歳の時で、その時はまだお互いに人見知りが発動して上手く話せませんでしたが、私のオリジナル魔法の『空中歩行』(空気を蹴ってその反動で空を飛んでいるだけの物理技)を使い一緒に雲の上を歩いたところ、一気に仲良くなることが出来ました。
それ以来、アズリエル様とは、私のことを愛称で『アンジー』と呼んでくださるくらいに仲良くなりました。また、時々魔法対決(私は魔法が使えないので物理ですが・・)をするのですが、今のところ私の五十戦五十勝です。
さて、話をクラス分けテストに戻しましょう。クラス分けテストは、筆記試験と実技試験の二つに分けて行われます。筆記試験は、貴族の常識やマナー、そして魔法に関する基礎知識などが問われます。正直言ってこの筆記試験は非常に簡単なものです。
問題は、次の実技試験です。実技試験では、魔法学校が用意した試験官相手に魔法だけを使って戦い、その実力を見せるというモノです。魔法が使えない私にとって、ここをどう乗り越えるかが非常に重要になってきます。
因みに、ゲームのアンジェリカは、試験官に賄賂を渡すことで魔法が使えないことをごまかしていました。・・お金の力って凄い。
筆記試験は予定通り順調に終え、次はいよいよ実技試験。実技試験は、筆記試験の結果が悪かった者から順に行われます。
私の順番は、なんと最後でした。筆記試験に関してはあまり心配していませんでしたが、よい結果を出せたことにほっと胸をなで下ろします。
『良かったですね、アンジェリカ様。』
先程から私の影の中に潜んでいるゼル君も、その結果を喜んでくれました。私が、「はい、とても嬉しいですわ。」と囁き声で返事を返そうとした時、聞き慣れた明るい声が私に話しかけてきました。
「あー!!アンジーが最後ってことは、また僕の負けかー!くっそー!!筆記試験ならワンチャンあると思ったのになー!!」
「ふふふ。私はそう簡単には負けませんわよ。アズリエル様。」
私はその声に笑みを浮かべつつ後ろを振り返ります。案の定、そこに居たのは私の婚約者であるこの国の第一王子、アズリエル様でした。
男性にしては背が低いアズリエル様ですが、それでも私よりは背が高いです。歩く度に爽やかな柑橘系の香りがほとばしるサラサラの金髪に、彼の明るい性格を表すかのようにキラキラと輝く青い瞳を持つ彼は、誰が見ても美少年と呼べる整った顔立ちをしています。
ただ・・と私は彼を見る度に思うことがあります。確かに彼・・アズリエル・ルミエールは、『聖女伝説2』において最も女性人気の高いキャラクターでしたが、ゲームの中の彼は、もっと俺様系というか、強引にヒロインに迫ってくるところが人気のキャラクターで、自信に溢れた不敵な笑みを浮かべることはあれども、こんな風に無邪気な笑みを見せることはなかったはずです。
ゲームでは確かもう少し背も高かったはず・・。しかしそれは、私がぽろっと筋力トレーニングをしていることを話してしまい、それに触発されたアズリエル様もまた筋トレにハマって幼い頃に筋肉をつけすぎてしまったからだそうで・・どう考えても私のせいです!!全国のアズリエルファンの皆さんごめんなさい!!
でも、私はむしろこっちのアズリエル様の方が好きですけれどね。え?ああ、勿論、友人としての意味でです。確かに私とアズリエル様は婚約者同士ですが、どうにも恋愛対象とは思えないんですよ。私の理想の男性は、私よりも強い方なので。
私とアズリエル様の順番はもう少し先なので、私たちはそのまま二人で軽くおしゃべりしながら、他の子供たちの試験の様子を見ることにしました。
「次!ミカルダ・サンシャイン!!前に出なさい!!」
名前を呼ばれ、「イエーイ!!」と力強い返事をしたのは、私も知っている人物でした。とは言っても、この世界で顔を見たのはこれが初めてですが。
騎士団長の息子、ミカルダ・サンシャイン。彼もまた、『聖女伝説2』の攻略対象者の一人です。190センチという恵まれた背丈に、引き締まった筋肉。真っ赤な髪を短く切りそろえた彼は、その見た目通りの熱血キャラです。
ミカルダもアズリエルに負けないくらい顔はいいのですが、ファンからはネタ枠と扱われており、あまり人気はありません。
彼がネタ枠と言われる理由。それは彼の使う魔法に大きな原因があります。
ミカルダ・サンシャインが持つ魔法適性は、『音魔法レベル8』。八大属性に属さないいわゆる特殊魔法の使い手です。
試験官に名前を呼ばれたミカルダ様は、試験官の元へと駆け足で向かいます。そして、「はじめ!」という合図と共に、彼は大きく息を吸い込み、試験官の先生は土魔法を使った防御壁を自分の周りに展開させました。
「堅忍・不抜のぉぉぉ!!百折・不撓の騎士団長(予定)ぃぃぃ!!戦いを愛しぃぃぃ!!戦いに愛された男ぉぉぉ!!!そう、我こそはぁぁぁぁぁ!!!!!サンシャイーン・・・ミ・カ・ル・ダ・・!!!」
ミカルダ様はそこまで一息で言い切ると、かっと目を見開くと共に、その声に己の魔力を込め、全力で叫びました!!
「イエエエエエーーーーーーーーーーイ!!!!!!!!!!!」
彼の叫び声は、防御結界を挟んでいる私たちの耳にも、かなりの衝撃を与えるほど力強いモノでした。さっきの一撃で魔力を使い果たしたらしいミカルダ様は白目をむいて倒れますが、ミカルダ様の音の衝撃派を真正面から受けた試験官もまた、地面にのびてしまっています。
入学初日の生徒が、試験官を相打ちの形とは言え倒したことに、周りからはおー!!と歓声が巻き起こります。
・・確かに、ミカルダ様の魔法は凄いです。でもこれ、どう考えてもサンシャイン○崎じゃないですか!?そりゃあ、ネタ扱いされてしまいますよ!!
ゲームの設定だと、サンシャイン家は、代々音魔法に適正を持つ家系だそうで、あの「イエーイ!」という叫び声が最も音魔法の力を引き出すらしいです。そのため、ミカルダ様はヒロインとのデート中でもことあるごとに「イエーイ!!」と叫んでプレイヤーたちのトキメキを奪っていきます。
制作会社のおふざけで産まれたとしか思えないミカルダ様ですが、そんな彼にもコアなファンは少数存在していました。また、その強烈なキャラクターから、ミカルダ様は『聖女伝説2』の宣伝部長としてメディアへの露出は多く、そのため、『聖女伝説2』のことは知らなくても、ミカルダのことなら知っているという人も居たくらいです。
さて、ミカルダ様についての話はこれくらいにして、再び試験に話を戻しましょう。周りでは未だミカルダ様の見せた魔法に対するどよめきが残っていますが、皆さん、このくらいで驚いているようでは駄目ですよ?
なぜなら、まだ大本命のアズリエル様やヒロインのルルーシュ、そして、何を隠そうこの私、アンジェリカ・スパルタンが残っているのですから!!
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「じゃあ、行ってくるよアンジー。僕もまた強くなったんだから!!期待していてよね!!」
いよいよ、大本命のアズリエル様の番がやってきました。私は、キラキラ輝く目でそう意気込むアズリエル様に、「頑張ってください!!」とエールを送ります。
「・・今はまだアンジーに勝てないけれど、いつかアンジーよりも強くなるから!!そ、その時は改めて正式にプロ・・」
「次!アズリエル・ルミエール!!前に!!」
アズリエルは顔を赤くして何やら言いかけていましたが、その言葉は試験官の先生によって遮られてしまいます。
「アズリエル様、今何か言いかけましたか?」
「・・いや、何でもないよ。」(あの試験官絶対ぶっ殺す!!)
・・あれ?何かアズリエル様の目のハイライトが急に消えました。なぜか少し寒気がするのは気のせいでしょうか?
その後、アズリエル様は試験開始直後に光魔法の中でもトップクラスの威力を誇る『神罰』(ジャッジメント)を試験官めがけ放ち、試験官の先生は一瞬でノックアウトされました。範囲内において死者が出ない結界の中でなければ即死レベルの威力だったそうです。
そんな魔法を使っておきながら、帰ってきたアズリエル様が実にスッキリとした笑みを浮かべていたことに、私は若干恐怖を感じました・・。
さて、次は恐らく私の出番です。何故断定形ではないのかというと、ゲームだとここでヒロインであるルルーシュが実技試験に乱入してくるからです。
ヒロインのルルーシュは、筆記試験で緊張のあまり途中で気を失って倒れてしまい、実技試験に遅れて参加します。そこで聖女の証である『聖魔法』を発動し、その魔法の美しさに第一王子であるアズリエル様は興味を持ち、ヒロインに近づいてくるのです。
ルルーシュが作中で初めて魔法を使うシーンは、その美しいグラフィックも相まってとても魅力的で、ファンからの人気もかなり高い場面です。ちなみに、その一場面を切り取ったスクショにはハンカチを噛みしめて悔しがる私、アンジェリカ・スパルタンの姿も映っています。・・半分見切れていますが。
そして、案の定と言うべきか、私の名前が呼ばれるその前に、ピンク色の髪をツインテールに束ねた可憐な美少女が、慌てた様子でこちらへと駆けてきました。
「ま、待ってくださーい!!まだ私が残ってますから、実技試験やめないでー!!」
あ、これって実際ゲームでヒロインが言っていた台詞ですね。でも、ゲームと違ってまだ私が残っていますから、皆何を言っているんだこいつは?とでも言いたげな目でルルーシュを見ています。うわあ。私、ヒロインの大切な台詞を台無しにしてしまいました・・。
「・・実技試験は終わっていないよ。アンジーの出番がまだだからね。」
アズリエル様のその言葉に、ルルーシュは信じられないモノを見るような目で私を見てきました。え?もしかして私の顔に今朝食べたレッドドラゴンの足の残りカスでも付いてましたか!?
「え!?何でここにあのアンジェリカが・・?あの不細工は実技試験には賄賂で参加していなかったはず・・。」
ルルーシュは何やらブツブツと呟いていましたが、声が小さくてよく聞き取れませんでした。何か伝えたいことがあるのかしらん?と近づいた私に、ルルーシュは突然満面の笑みを浮かべてこんなことを言い出しました。
「アンジェリカ様!!是非私の前にお手本として素晴らしい魔法を見せて頂けませんか?私、アンジェリカ様の大ファンで・・。」
こ、この子は・・なんて素直で可愛らしいんでしょうか!!流石ヒロインです・・!!そんな期待の籠もった瞳で見つめられては、本気を出さないわけにはいきませんね!!
私は、試験官の先生に名前を呼ばれ、「はい!!」と気合い満々で返事をした後、数メートル離れた位置で構えました。
そして、「はじめ!」の合図と同時に、私は一瞬で試験官の先生との距離を詰めます!!
「何!?まさか、転移魔法の使い手か!?」
試験官の先生が、いきなり目の前に現れた私に驚き声を上げました。
あ、これは『転移魔法』ではありません。ただ地面を高速で十回蹴って高速移動しただけです。
先生はとっさに風の結界を張ります。この先生は風魔法の適性があるのですね・・。しかし、そんな薄っぺらな結界、お母様の足下にも及びませんよ!!
私は、指を弾いた勢いで風を押しだし、それを結界目掛けぶつけます。これは、私が考えたオリジナル技の一つ、『エアーバレットもどき:レベルMAX!』です!
風の弾丸は、結界に当たると同時に木っ端微塵に破壊し、先生は衝撃の余波を受けて数十メートル離れたところにある壁まで吹き飛んで行ってしまいました。
・・あれ?もしかして私、やり過ぎちゃいました?
『いや、アンジェリカ様。大変見事でした。また惚れ直しましたワン。』
ぜ、ゼルくーん!!ありがとう!!貴方は私の自慢のペットだよ!!
あ、結局実技試験では満点を貰うことが出来ました。イエーイ!です!・・はっ!?サンシャイン家の口癖がつい!?あと、クラス分けはちゃんとSクラスに決まりました!
Sクラスには他にはアズリエル様は勿論のこと、実技試験の結果が良かったミカルダ様、そしてヒロインであるルルーシュもその魔法適正、『聖魔法レベル10』が評価され、Sクラスに。まあ、三人がSクラスに入ることはゲームの知識で知っていたんですけれどね。
しかし、何故かルルーシュは終始浮かない顔をしていました。一体何があったのでしょうか?私に解決できる悩みなら、手伝ってあげたいです。自慢の筋力で何でも解決してあげますよ!!うおおおお!!!
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「何であいつが魔法を使えるのよ!?あいつは魔法が使えないんじゃないの!?・・私は騙されないわよ。必ずあんたの化けの皮を剥いであげるわ、アンジェリカ・スパルタン・・!!アズリエル様のハートは、絶対、この私が掴んでみせるんだから・・!!」
次回更新もなるべく早く!気合い!入れて!行きます!イエーイ!