第一話;先手必勝
ものすごい速さで、あっという間に馬車は遥か前方へと視界の端から端へと消えていった。それを追いかける四人組。メルシーは闘う気満々だ。すぐさま実態化して聖の髪に両手を重ねた上に顎を乗せ、嬉しそうに目の前に来る男達を待ち構えている。
メルシーとは対照的に、聖は当惑気味だ。馬に乗り、全速力で駆けて行こうとしている者達。全員が褐色で重量感のある鎧と兜を装備している。聖にはどうしても騎士達が馬に乗る様が、盗賊や野党には見えないのだろう。むしろ、噂に聞くギルバード三部隊の一角、それか教皇直属の聖騎士隊のような正規の部隊ではないか…と思うと、メルシーの言うとおりに行動して、はたして無事にギルバードに入れるのかさえ分からない。
(最悪捕まって、ギルバードに入れないで強制送還だよ…)
それだけは何としても避けたい。母親はともかく、レートニイやターシャに合わす顔がないのだ。特にターシャ。街を出る時に、怪我をしているので別れの挨拶はあえてしなかったのだが、今思うと自分は奈落の底に一歩足を踏み外したのかもしれない。そう思ったのはついさっきだが、逆に不味かったのではないかとだんだんジレンマに陥ってくる。
「聖。私が合図したらやるぞ。あの屈辱の戦闘から幾星霜…今こそ新必殺技のお披露目だ!」
ロムとのことだ。あの森での死闘。結果はともかく、その過程がメルシーにはお気に召さなかったらしい。聖から手をどけて、その右手にはめられた指輪へと姿を移した。興奮し、やる気に充ち溢れているのが、指輪を通して聖に伝わってくる。
「いや、ちょっと待って。実はあの馬車は強盗で、騎士四人が追跡してるって仮定するとさ。僕たち、完全に同罪だよ?」
メルシーの暴走を抑えようと、聖は心中あわてていたが、努めて冷静に告げた。
「それならそれで、騎士四人を倒し、さらに強盗逮捕!そして馬車を使って悠々首都に行くことができる。完璧だ。非の打ちどころがないこの計画。はは、いいことずくめじゃないか。」
メルシーは高々と笑っている。
「…うーん……そううまく進むとは……」
言葉とは裏腹に、聖はどうやら諦めつつあるようだ。経験上、メルシーのテンションがここまで上がっていると、止められるのはアミリヤくらいだ。盗賊退治に向った時の出来事が鮮やかに脳裏に浮かんでくる。
「いくぞ、聖。意識を深く、深く、集中。ゆっくりと周囲の大気と同化していくイメージだ。」
「了解。」
聖は目を瞑り、手を胸の前に合わせる。穏やかな微風が、あたかも聖の意識と同調するかのように緩やかに渦巻いていた。
(イメージは…鷹。)
「重圧の烈風!!」
唱えた直後、馬を走らせていた四人の頭上に、遥か上空から一直線に風で作られた四匹の鷹が、放たれた矢となって急降下した。
色々忙しくて遅くなりました。更新もっと早くなるように頑張ります。