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「遂に姿を現したか!」
声に喜びを隠しきれずに、ナイジェルニッキは上空に出現した剣を見上げていた。
「どの様にすれば見つけられるのか、難儀したがようやっと手にする事が出来る」
そしてナイジェルニッキは手を伸ばす動作から、一息に己の船を飛び越え<我が女神号>へと飛び移って来た。ゲオルグの伸ばした手は虚しく空を切る。
突然に人間技とは思えない動きで<我が女神号>の舳先へと乗り移って来たナイジェルニッキに、サグレス達士官候補生は互いに強い警戒心を抱きながら対峙した。およそ戦闘には不向きと思えるナイジェルニッキの姿と今の動きが掛け離れているだけに、どう来るのか予想も付かなかった。
「気をつけろ。エディラを守るんだ」
サグレスの注意に皆、深く頷く。舳先近くにいたデワルチが真っ先にナイジェルニッキに斬り掛かった。
「邪魔だ」
ナイジェルニッキは腕の一振りでデワルチを退け、エディラに近づいてくる。デワルチはその体を強く舷側にぶち当てていた。ナイジェルニッキのその目は空中の剣を見つめ続けている。その剣は大人の背丈程もある大きな幅広の剣だった。見事な鞘の文様は見惚れる程だが、その大剣を抜く為にはどの様な技が必要なのかと思わせる。
「止めないと…マズイです!」
グロリアも輪から離れナイジェルニッキに対峙する。一人では無理だと判断したのかラディックも加勢する。
「邪魔だと言った」
ナイジェルニッキは駆け出すと、両側から躍りかかったグロリアとラディックを撃ち払う。二度三度と2人は切り込むが、ナイジェルニッキの足止めにもならない。ナイジェルニッキはその勢いでエディラに迫る。
「止めないと!」
シナーラが短剣を構えすのを感じながら、サグレスもナイジェルニッキに対峙した。その時、ゆっくりと剣が落下しそれはエディラを目指して落ちて来ていた。
「危ない!」
サグレスがエディラを避けさせようと、押しのけるがその体はビクともしなかった。
「再びの封印など、そうはさせない!」
ナイジェルニッキが足を早めて、空中高く飛び上がり剣に手を触れようとした。
(愚か者!それに触れてはならない)
雷の様な声が響き、海王が手を伸ばして巨大な翼の片方をもぎ取った。海上が激しく波打ち、ナイジェルニッキは甲板に打ち付けられる様に落下した。すぐに起き上がるが、片方の肩を庇っている。しかし、その目はまだ諦めには程遠い色をしていた。船は大きく揺れていた。