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一行が浜辺に姿を現したの見つけて<我が女神号>は歓喜に沸いた。上陸用の小船にはエディラとゲオルグが乗り込み、サグレス、シナーラ、デワルチはその周りに取り付いて足が届く限りは歩き、その後は小船とつかず離れず泳いで<我が女神号>を目指した。最初サグレスも船に乗るように勧められたが、ゲオルグの怪我を思い遠慮したのだった。やがて<我が女神号>の船べりに辿り着くと、最初に小船ごとエディラが引き上げられた。
「あのさ。船に女性が乗るとまた、やばい事が起きるんじゃないのか?」
「あ!」
サグレスとシナーラが顔を見合わせているとふふっとゲオルグが笑った様な気がして、サグレスがその顔を凝視すると、ゲオルグは「よくやったな」と一言告げると綱を手繰り甲板へ登っていった。
「良かったな」
デワルチもサグレスの肩を叩くと船に足を掛けた。サグレスとシナーラは顔を見合わせると、慌てて後を追った。
甲板に顔を出すと、ちょうどエディラが小船から降りるところだった。恭しくエスメラルダがその手を取る。エディラの足が<我が女神号>に触れた瞬間、キラキラと船全体が光り帆柱の一番上まで輝いている様にサグレスには見えた。船全体が大いなる力で覆われている気がする。
「綺麗だね」
隣でシナーラが舷側を乗り越えながら、見惚れた様に周囲を見回していた。
「お帰り!」
「無事で良かった」
「よく頑張ったな」
口々に肩を叩く候補生達の間からサグレスはエディラを覗き見る。エディラはゲオルグとエスメラルダの間で安心しきった様に笑顔だった。
「また、何か起こるんじゃないかって思ってる?」
「え?」
そんなサグレスの様子を見てシナーラが面白そうに聞いた。
「えー何なに?」
ラディックも話に入って来た。
「分かってねーなぁ。この船の名前をちゃんと理解してるのかよ!?」
シークラウドがニヤニヤ笑いながら混ぜっ返す。船の名前?<我が女神号>が何だろう?サグレスの考えている事が分かったのか、シークラウドが続けた。
「我らの女神の降臨にこれ以上の僥倖は無いだろう?他に一体誰を乗せるつもりなんだよ。これで俺らは無敵だな」
エディラは自分には何の力もないと言っていたが、フェナの直系の力の一片がサグレスにも満ちてくる感覚を覚えていた。ふと、エディラと目が合うとエディラがこちら近づいて来た。自然とサグレスの周りの士官候補生達の輪が少し大きくなって、エディラの場所を開けていた。エディラはサグレスの前まで来ると、手を伸ばした。きょとんとするサグレスに慌てて周りが跪く様に促した。エディラの小さな手がサグレスの肩に触れる。
「ここまで無事に来れたのはお前のお陰です。これは私からの感謝と信頼の証です」
「はっ」
エディラの顔が心なしか赤らんでいるように見える。座に安堵の空気が流れていた。しかし、次のゲオルグの声に皆これからの事を思い出した。
「これより、最大速力にてイングリアへ向かう。総員配置に付け」
帆柱の上にいた西風のスレイが大きく頷くのをシナーラは目にした。やがて<我が女神号>は帰国の途に着いた。