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海はまだ時々荒っぽい波を寄こして来ている。目指す島々はいくつもあり、砂浜が広がるところもあれば切り立った崖が海に向かって張り出しているところなど、変化に富んだ景色を見せていた。そして寄せられる限りは島に船を近づけるが、砂地であればかなりの距離を置くしかなく、また崖沿いには常に海中の岩石に注意が必要だった。それでも皆、可能な限り甲板へ出て、左右の島々を目を凝らして見つめているが、まだ何がしかの兆候のかけらも見つける事は出来なかった。
「この先どうする?」
イーグルがゲオルグに問いかけた。ゲオルグはうーむと唸ったきり、黙り込む。
「いっそ、片端から上陸して探すか?」
「ここに流れ着いているという確証が無い以上、ある程度で見切りをつけて他の島々へ移動した方が良いのでは無いでしょうか」
「難しいところだな……」
エスメラルダの意見も良案と言うには程遠い事は、皆十分承知している。
「ねぇねぇ。フェナとか呼び出して、こうどーんと見つけて貰うとか出来ないのかなぁ?今までだって、散々ありえない事が起こってるし、ゲオルグとか交渉とか出来ないのかな」
小声でラディックが隣にいたグァヤスに話しかけて来た。
「いや、フェナってそう簡単に呼び出したり出来無いだろう」
「難しいと思いますよ。フェナは自然の理の具現化したものだと言われていますから、呼び出して願いを叶えるみたいな事はしないんじゃでしょうか」
グロリアも残念そうに答える。
「流石にこの広い海の上で人探しなんて無理じゃないか?この前の沈没船探すのだって何日も掛かってるし」
デワルチもそう言いながら、最悪の可能性は口に出せずにいた。その場の全員がため息を付く。
(そう……だよね。僕らだけの力では限界がある。何か手立ては無いだろうか?フェナ……は無理にしても何か、もう少し超自然的な……)
会話の途中で座から抜けて再び見張り台にむかいながら、シナーラは一心に考えていた。何かこの状況を打破する手は無いんだろうか。マストに登ると強い風が頬を叩く。その事がシナーラにある事を思い出させた。
「あ!」
(スレイ!西風のスレイを呼べれば、或いは血族のエディラ様の居場所を教えてくれるんじゃないだろうか?でも、どうやって?)
シナーラはありとあらゆる迷信やまじないを思い起こし、やがて東の方向へ向かって小さく口笛を吹いた。口笛は無風の時に風を呼ぶまじないと聞いた事がある。そして、西風は東から西へ吹くのだった。
「スレイ!エディラ様の場所を教えて。僕らはエディラ様をイングリアへ連れて帰りたいんだ」
何度か口笛と、呼びかけながら周囲を見回す。やがて諦めかけた時、とある島と船の間くらいの位置に小さなつむじ風が起こった。シナーラがすがるように目を凝らすと、その先の島の斜面のひとつに何か白い物が翻るのが目に入った。すぐさま傍らの鐘を力いっぱい鳴らす。
「どうした?」
「見つかったか?」
甲板から次々声が掛かる。
「あそこです!」
「吹流しがある!」
シナーラが真っ直ぐ指差した先を、イーグルが確認する。甲板が一斉に沸いた。
「上陸するぞ。船を廻せ」
ゲオルグの低い声が響いた。