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 そういえば、陽光の下で会うのは初めてだな、とロクゼオンはサランドラの顔を見つめながらふと思った。蝋燭の灯りと濃い化粧が無いせいか、柔らかな微笑を浮かべる目の前のサランドラはびっくりするほど幼く見えた。もしかすると、老夫婦のお陰なのかもしれない。そんな事がロクゼオンの頭を掠める。

「その……」

「いらっしゃいませ。ここへ連れて来てくれたのは、きっとあなたなのでしょう?」

 立ち上がり優雅に挨拶するサランドラにロクゼオンは柄にも無くどぎまぎした。頭の端ではしっかりしろと己を叱咤してみても、この動悸はどうにも収まらない。ザルベッキアで浮名を流して来たのもこれまでか、と苦々しく思ったのが顔に出たのか、サランドラがくすりと笑う。釣られてロクゼオンも笑い声を出した。ひとしきり笑った後、サランドラはリューンの花束を嬉しそうに受け取った。その華奢な体はロクゼオンにすっぽり隠れそうだった。花の香りがサランドラを包み、やがてロクゼオンにまで運んできた。穏やかな時間が過ぎているのを感じていた。

「俺の妻になってくれないか?その……すぐでなくてもいいから、考えてみて欲しい」

 ロクゼオンの物言いに最初きょとん、とした表情をしたサランドラだが、やがてその顔をすっと花束に隠してしまった。花の陰から声が聞こえる。

「私など、あなたに相応しくはありません……」

 最後の方は消え入りそうだった。ロクゼオンは慌てて、否定する。

「そんな事は無い。君以上に素晴らしい女性なんて思いつかない。今まで大勢の女性と付き合ってきた俺が保障する。あ!」

 バツが悪そうに口ごもったロクゼオンに花束の向こうでくすりと笑う声が聞こえた。ロクゼオンは堪えきれずに花束ごと抱きしめたが、花の香りにむせ返った。サランドラは溜まらずに笑い転げている。ロクゼオンも釣られて一緒に笑った。そして花束を押しのけると、ロクゼオンはサランドラに口付けた。サランドラも花束を手放すと、ロクゼオンを抱きしめた。時がゆっくりと過ぎていった。


「好きに……なっても良いですか?」

 伏し目がちにサランドラが呟いた。

「もちろんだとも!ゲオルグの事も心配しなくていい」

 その名を聞いた途端、サランドラの表情がやや曇る。

「あの人は……神の国に行ってしまいました」

「え?」

「あの。決してあなたをあの人の代わりにするつもりはないわ。お店から連れ出して、こんな境遇まで用意してくれて、毎日お花を届けてくれるのはどんな人なのかと、毎日想っていたの。私にそんな価値なんてあるんだろうか?って」

「ある!あるよ。今までの分、ずっとずっと幸せにならなきゃいけない。俺が必ずそうするから」

「ありがとう」

 ロクゼオンは跪いて、サランドラの手に優しく口付けをした。それが2人の約束の証となった。

「いいところ、邪魔して悪いんだけどさ」

 突然、低い声が聞こえた。振り返るとそこにはサフランが立っていた。傍らには老婦人が嬉しそうに2人を見守っている。

「ロクゼオン。あんたに手を貸して欲しいんだ。イングリアが今、大変な事になってるって話知ってる?」

「何か厄介ごとに巻き込まれてる事は聞いたが、何だ?」

「あんたの私兵を貸して欲しいんだよ。海賊をあぶれた連中が一枚噛んでんだ」

「詳しい話を聞こう」

 海賊だがサフランは<山吹の子猫亭>の経営者でもあるため、ロクゼオンとは顔見知りだった。お互い持ちつ持たれつの海の協力者と言ったところだった。

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