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 太陽は高く昇って日差しがきつくなってきていた。風はあるものの、夏の気温は高く林の中は蒸し暑かった。気温がどんどんと上がり、不快である事この上ない。更に獣道とも呼べない程の細い道筋はやがて急な勾配を示している。そろそろ喉の渇きも限界に近づいてきていた。目の届く限り砂浜が続く海岸線よりは、日陰を選べる山道を登って源流を探そうと、エディラを伴って山登りを始めたサグレスはやや後悔を始めていた。炎天下を海岸沿いに河口を探すのとどちらが良かったのだろうか?それでも、最初の内はサグレスに悪態の限りをついていたエディラも少し前から大人しくなっていた。

 大きな倒木を乗り越えようと、エディラを振り返ったサグレスはエディラの歩き方がおかしいのに気が付いた。良く見れば、足先に血が滲んでいる。

「足、大丈夫か?痛むのか?」

 サグレスの問いにエディラはつんと横を向く。しかし、直ぐにその瞳には涙が溜まり零れない様に堪えている様子が見て取れる。

「ちょっと見せてみろよ」

 サグレスはエディラを抱え上げると倒木に腰掛けさせる。少し抗う様子を見せたエディラだが、すぐにされるがままになっている。サグレスはそっとエディラの靴を脱がして気がついた。靴とは名ばかりの布で出来た室内履きである。サグレスの刷いているような皮の靴でさえ、小石や枝を踏めば痛みが出るのにこれでは裸足と変わらないだろう。相当痛かったはずである。

「うわっ……。これは……気がつかなくてごめんな」

 血まみれの足に自分のシャツを裂いて血をふき取りながら謝るサグレスがエディラを見上げると、途端にエディラの瞳から大粒の涙が後から後から零れ落ちてきた。

「ごめんな。俺が悪かった……よ」

「痛いわよ。痛かったわよ……」

 泣きながら、サグレスの肩を叩くエディラが落ち着くまでサグレスはされるがままにしていた。やがて涙も涸れたのか、サグレスの肩に埋めたエディラはしゃくりあげるように泣き続けた。困った、サグレスが上を見上げると、近くの枝から大粒の葡萄の実が一房下がっているのが目に入った。

「ちょっと待ってて」

 サグレスはそっとエディラを離すと、手近な枝を辿って葡萄を手に戻って来た。エディラはまだしゃくりあげている。サグレスは一粒口に入れると十分に甘く、瑞々しかった。

「ほら。喉が渇いただろう?」

 房ごと差し出すサグレスに弱々しく首を横に振るエディラの口に一粒葡萄を放り込む。観念したようにエディラは葡萄を噛み締めた。渇いた口の中に果汁が広がっていく。

「洗ってない」

 飲み込んでから、エディラが小さい声で抗議する。サグレスがはははと乾いた笑いを返した。エディラはサグレスの顔と葡萄を交互に見ると、もっと小さい声で呟いた。

「もっと」

「沢山食べな」

 サグレスが房ごと差し出すのにエディラは首を振って、取ってと目で訴える。仕方なくサグレスは一粒づつ房から外して渡してやった。エディラがゆっくり食べる間に時々自分の口にも放り込む。陽はいよいよ中天に掛かっていたが、やがて風向きが変わり、上の方から水の匂いがした気がする。

「そろそろ行こうか」

 立ち上がったサグレスはエディラに背中を差し出した。エディラはおずおずとサグレスに背負われた。勾配はまだそれほどきつくない。サグレスは一歩ずつ頂上を目指して歩き出した。

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