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 そこには上着を肩に掛け、服を着崩したゲオルグが立っていた。それを見て、僅かにエスメラルダの顔が曇る。

「何、良い思い出にしてるんだ?鼻にもかけられてなかったってのに?」

「おぅ、言ってろ。俺の心の奥底の大事な大事な青春の思い出なんだぞ」

 口は悪いが互いの表情から冗談と知れてサグレスはほっとした。他国で揉め事に巻き込まれるのはごめんだった。ゲオルグは上着を放り出すと、ロクゼオンの向かいに腰を下ろした。そのまま、大きく伸びをする。その様子にロクゼオンの顔が綻ぶ。

「大分、お疲れのようだな。あいつらじゃ大変だったろ。それにしても随分早かったじゃないか。途中で逃げだしたのか?」

 ロクゼオンのほほに浮かぶいたずらっ子のような笑みに、こちらも不適な笑みを湛えてやり返す。

「丁重にお相手して差し上げたよ。2人共な。今頃、夢の中だろ」

「2人!一度にか!?そりゃ、また旺盛なこった。それにしてもお前はずいぶん男前になったじゃないか。何やったらそんな傷作ってくるんだ?大方移り気がばれたんだろう?」

「ふん」

 大笑いする2人の陰で、サグレスは欠伸を噛み殺した。シナーラはサグレスを突付いて小声で囁いた。

「もう、用は無さそうだから休んでもいいんじゃないかな?」

「そうだよな」

 2人が静かに続き部屋へ立ち去りかけた時、背後で鈍い音が響いた。

「エスメラルダ!」

 振り向いたサグレスの口から思わず声が漏れる。それはエスメラルダが床に倒れた音だった。傍らには運んできたらしいグラスが転がっている。一足飛びに駆け寄ったゲオルグが抱き起こすと、エスメラルダの口元から多量の血が溢れ出した。眼は固く閉じられ、その顔色に血の気は無い。

「医師を……」

 すぐさまロクゼオンが立ち上がったが、ゲオルグがそれを押し止めた。

「どうして!?」

 サグレスがゲオルグに詰め寄った。すぐにでも医師に見せなければ、エスメラルダの容態は命にかかわるように思える。しかし、ゲオルグは静かに首を振った。

「無駄だ。すぐにでも船に戻さないと……」

「それなら俺の馬車がある。良ければ使ってくれ」

「すまん。お前達はラルダに付き添ってやってくれ。俺は残らねばならん」

「何で、船なんだ?今すぐ手当てしなければ……」

「行け!」

 サグレスにはゲオルグの言動が理解出来なかったが、シナーラに促される形で部屋を出る。ゲオルグがエスメラルダを抱え上げてロクゼオンの後に続いた。

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