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頬に当たる砂粒が生ぬるい暑さから徐々に焼ける暑さに変わってきている。握った手のひらから湿った砂が零れ落ちていく。
「……う」
喉が焼けるように熱く、しみる瞳から僅かに涙が零れた。そのしずくが唇に触れて、ヒリヒリする。
「しょっぱぃ……」
サグレスはようやく目を開けて上半身を起こした。目の前には砂浜とその先には雑木林が視界を塞いでいる。振り返れば大海原だ。波はやや高いが、水平線と一面に広がる雲が目に入った。太陽が出ているので雲はじきに払われてしまうだろう。日差しが強くなりそうだった。ようやくサグレスは砂浜に起き上がり、体に貼りつく砂粒を払いのけた。
「どこだ?ここ」
ぐるりと見回すと、海と砂浜が延々と続いていて右も左も砂浜は大きくカーブして視界から消えている。徐々に色々な事が思い出されて来た。突然現れた少女を追って、海に飛び込んだのだった。ふと目を凝らすと、少し先に人らしき姿が目に入った。同じく砂浜に打ち上げられたらしい。ようよう立ち上がり、そちらへ近づく。見慣れない赤味がかった髪は波が寄せる度に揺れている。確かゲオルグは「エディラ」と呼んだ。それに赤い髪は王族の印だ。一瞬いやな予感がしたが、胸元が呼吸を刻んでいるのが分かりほっとする。そっと肩を揺さぶってみる。
「おい。大丈夫か?」
2、3度揺らすと、軽いうめき声と共に少女は目を覚ました。サグレスは真っ赤な瞳を予想していたが、予想に反してその瞳は明るい金茶色だった。少女は最初不思議そうにサグレスを見つめた後、ゲオルグはどこ?とだけ言った。
「ゲオルグは<我が女神号>にいるはずだよ。俺たちは海に落ちてここまで流された……と思う」
あの激しい戦闘の最中、無事に船に戻れたかは知る由も無いが、なんとなく大丈夫だと思い込む事にした。
「ゲオルグは無事なのね」
ほっとしたように少女は呟いた。
「あの……君って、エディラ王女様?」
おずおずと問うサグレスにまじまじと少女はサグレスの顔を凝視した。
「あなた、誰?私の事を聞いてどうするつもり!?」
その不審さを宿す瞳と鋭い言葉尻にサグレスは言葉に詰まる。
「俺はイングリアの士官候補生でサグレス……と言います」
少女にはつい、語尾を改めさせる程のオーラがあった。
「そう。私はエディラ。イングリアの王位継承者。では速やかに私を護衛して国に帰しなさい」
サグレスを上から下まで見回した後、エディラはつんとすましてそう言った。そのまま、サグレスから目を逸らしている。
「いや……そうは言っても、ここがどこだか」
「早くしないさい!」
終いには癇癪を起こすエディラにサグレスはそっと呟いた。
(女の子って難しいな)