6
ゲオルグが立ち去った後もしばらくはダラダラと宴は続き、夜半をまわった頃、ようやく宴はお開きになった。評議員の幾人かが残っていたために、その相手をしない訳にはいかなかったのだ。最初は物珍しかった異国の話も酔いに任せて何度も同じ話を繰り返されるのは閉口せずにはいられなかったが。
それからサグレス達は与えられた一続きの部屋へ案内された。豪奢な造りにサグレスが驚いている内にヴァーサが口も利かずに奥まった部屋へ消え去った後、エスメラルダはサグレスとシナーラを労った。
「二人とも遅くまでご苦労様でした。後はもう良いですから今日はゆっくり休んでください」
「はい」
部屋にはゲオルグが戻った様子は無い。サグレスとシナーラが顔を見合わせた時、力強く扉を叩く者があった。慌てて扉に近寄ったシナーラが誰何する。
「俺だ、ロクゼオンだ。もうお休みか?」
エスメラルダの許可を得て、シナーラが扉を開くと大柄なロクゼオンがずかずかと入り込んできた。いつの間にか、軽装に着替えている。
「夜分にすまんな。こんな時でもないとゆっくり話も出来ないからな」
エスメラルダの勧める長椅子に深々と腰を落ち着けると、ロクゼオンはぐるりと室内を見回した。ロクゼオンは評議員にしては若すぎるように思える。サグレスが注視していると、照れたようにロクゼオンの顔に人懐っこい笑顔が浮んだ。
「お?流石に戻っていないか。なかなかてこずってる訳だ。待たせて貰ってもいいかな?」
「どうぞ」
エスメラルダはにこやかに微笑みながら、いつの間にか用意した飲み物を差し出した。ふとその顔にかかる髪をロクゼオンはそっと掻き上げた。慌ててエスメラルダが体を起こして避けた。
「あ、済まん!ルビニアに似ていると思ったら、つい」
「姉上に、ですか?」
耳まで赤面しているロクゼオンに強張ったエスメラルダの顔もほぐれた。
「ルビニアって確かアーディの長姉だよね?凄い美人なんだって」
シナーラが小声でサグレスに耳打ちした。エスメラルダであれだけの器量ならそれもあるかもしれない。そういえば、イングリアは世界でも屈指の美形が多く排出される国というのが定説で、過去にはそのために大陸に隷属していた時代があったという。女神ファンの物語はこの大陸からの開放の物語でもあった。
そして、今ではルビニア、サフィニアという絶世の美女の姉妹がいるという噂が海を越えて届いているというのがもっぱらの酒場の酔っ払いの与太話である。
「姉さん、元気でやってるか?さっきはあんたの事、勘で言ったんだがあれで合ってるんだよな?」
「はい。そう言えば、姉上に異国の方の話をお聞きした事があります。あれは卿の事だったのですね」
「さぁ。ルビニアには競争相手が多かったからな。結局、俺も敗れた一人だしな」
自嘲気味にロクゼオンが呟いた時、外から扉が開かれた。