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ハインガジェルはすぐに気持ちを切り替えて、船長に合図をする。船長もすぐに気づいて配下にそっと指示を出している。こいつらはもうそこらの海賊崩れなんかじゃない。そう、ハインガジェルは思い直す。
「撃て!」
ハインガジェルの良く通る声を消し去るように轟音がいくつもいくつも響き渡る。大砲が射程に捕らえたサフランの船の舷側にいくつも木っ端が弾け飛ぶ。同時に何人かの水夫が海面へ落ちたり、蹲るのが見える。大陸の最新式の大砲の威力は申し分無かった。
「次!」
ハインガジェルの合図を待ちかねたかの様に砲弾が霰の様に降り注いでいた。
「兄者め!甘い顔していればつけ上がりやがって!」
対するサフランは鬼の形相である。
「お頭。やばいって。向こうさんの火力はやたら強いって」
及び腰の船長にサフランの怒りは沸点に達した。
「乗り込むよ!」
サフランの怒号に船員達は右往左往しながらも、船体を操りながら海賊ならではの流石のスピードで敵船に漕ぎ寄せる。最後には相手の胴体めがけて、敢えてぶつけて船速を落とす。当たった瞬間を狙って甲板の海賊達が半月刀を手に手に飛び移る。衝突の衝撃で体制を崩した相手を片端から切り伏せるのが海賊流だった。
しかし、飛び移ってきた海賊達を待っていたのは、武装したクルゼンシュテルン以下、屈強な兵士達だった。海賊達は予想だにしなかった反撃に合い、見る間にその数を減らして行った。
中でもクルゼンシュテルンの剣技の技は見事なもので、狭い甲板に似合わずの大剣を操り、一人で反芻を超える数の海賊を一撃で絶命せしめていたのだった。
「海賊の手の内なんぞ、読んでるっつーの」
半月刀の間をかいくぐりながら、ハインガジェルは呟いた。その目の前に怒りに燃える、サフランが立ちはだかる。
「よくも!兄者!」
「悪いな、サフラン。お前の相手は俺じゃない」
ハインガジェルの指し示す先にはクルゼンシュテルンが剣を構えて立っていた。その姿に一瞬の隙も無い。さしものサフランも覚悟を決めた、その時。マストの一番上の旗が激しくはためき始めた。
「船だ!」
船員の誰かが声を張り上げている先に微かに船影が滲んで見えた。
「あれは……?」
ハインガジェルはその影に見覚えがあった。