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 じきにナイジェルニッキはクルゼンシュテルンを伴って船室へ移っていった。エディラも元の部屋へ戻されている。甲板にはエトワールと2~3人の船員がいるだけだった。出航にはまだ少し時間があるようだ。恐らく情報を整理して進路を決めるといったところだろう。

(成り行きでここまで様子見ていたけど、流石に色々まずいよな……。まずはエディラ様を逃がす事と、イングリアにこの事を知らせないと)

 ナイジェルニッキとは親戚筋とはいえ、エトワールの気持ちは既に親イングリアのつもりである。彼を止めないと、とは思うが側に手練れのクルゼンがいるのであれば、下手な事は言えない。何とか船から出る方法を……と思いをめぐらせたところで隣の船に目が止まった。

(あの船を乗っ取って……とはいえ、俺は船を動かせないしな)

 何か手が無いかと、視線をめぐらせているところで一人の人物が猛然と自分を見つめているのが目に入った。目から火を噴きそうな勢いである。その視線に負けてエトワールは目を逸らしたところで、はたと思い出した。

(あいつ、イングリアの仕官じゃないか?良く見れば仕官服を着崩しているし、何より見覚えが無くは無い。そもそも何でこんな所にいるんだろうか?敵?見方?ままよ)

 自分のことは棚に上げて、逡巡するが再度目線を送ってみるとまだその視線は自分を射抜きそうに睨み付けている。

(怖い……けど、賭けてみるかな?)

 まだ、渡り板はそのままだった。艤装からしても自分達が乗って来た方が上等だと言う事は分かるので、恐らくこちらの船は従走させるか、他の目的に使うと思われる。乗組員の数も随分少ないことが分かるので上手く乗っ取れれば逃げおおせる事も可能かもしれない。エトワールが渡り始めると、件の相手が渡り板へ近づいて来る。エトワールが口を開く前にものすごい剣幕で相手が口撃してきた。

「あんたね!陛下の愛人のフリして、密偵だったのね!」

 なるほど、向こうは俺の事を知っているのか。慌てて、エトワールは相手の口を塞いだ。ここで騒がれて水の泡にはしたくは無い。小声で相手の耳元で囁く。

「ちょっと待って、落ち着いて。君はイングリアの士官だよね?だったら状況分かるよね?俺はエディラ様を助け出す機会を狙ってたんだ。協力してくれないか?」

 味方の保障は無いため、一か八かの賭けではあったが、その言葉を聞いて相手は不意に静まった。

「どういう事?」

 相手-ヴァーサは目の前の宮廷楽師の真意を今ひとつ測りかねている。

「俺がエディラ様をこちらの船へ連れて来これたら、姫を乗せてイングリアへ逃げ延びる事は可能かな?」

 ヴァーサは小首を傾げて、何事か思案している。

(ザルベッキアを放り出して逃げた事も、エディラ様を救出して国に帰れば帳消しになるどころか、英雄ね)

 出世欲だけは旺盛なヴァーサである。こちらの船員の質が低い事は十分承知していたので、意のままにする事はそれほど難しくは無い。しかし、口に出してはこう言った。

「やる価値はあるわね。あんた信用出来るんでしょうね」

 返事の変わりに2人はがっちり握手した。

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