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 議場から続いて案内されたのは、盛大な宴の場だった。他国へ初めて訪れたサグレスには見るものすべてが物珍しかったが、役割からしてあまりきょろきょろする事も出来ず、また衆人の視線を集める状況は思ったよりも緊張してここまでの事をほとんど覚えていないような有様だった。

 ザルベッキアはイングリアより温暖な土地柄らしく誰も彼もが薄手の服装であるが、殊に女性陣の姿は唖然とするばかりである。大きく肩を出した上に服の上からも体の線が分かるほどであるので、自然サグレスは眼を逸らしがちになる。


 そして、勧められるままに初めて見る凝った料理や食材を口にして、その味の複雑さに驚きを隠せない。サグレス自身はイングリア島中央部の貧しい寒村の出身であるため、素朴な味しか知らないのもあった。いくつかは故郷の妹にも食べさせてやりたいな、などとぼんやり思う。


 後から後から運び込まれる贅を尽くした料理にさすがのサグレスも閉口しはじめた頃、アクセオールを先頭に主だった者達はサロンへ移動し始めた。それを潮時と集まっていた者たちも少しずつ減っていく。サグレスもシナーラと目立たぬ陰に陣取った。彼らを気にかける者は既にいなかった。サグレスは今日の事を思い返していた。

「一体どういう事なんだ?」

 侍女に手渡された果実酒に口をつけながら、サグレスは呟いた。怪訝そうにシナーラが振り向く。

「え?」

「ゲオルグとエスメラルダがあの建国の英雄の末裔だって事だろ?」

「そうなるのかな?でも、あの二人ならありえるかも。それに<我が女神号>は元々シスヴァリアス提督の私艇だったんだよね。ゲオルグの事といい、何かあったのかな?」

「そうだな……」

 シスヴァリアスとアーディといえば、イングリア建国の物語に登場する五人の英雄の末裔の内、現存する2つの家系である。共に武将知将として王家を支える名家である。


 今まで与えられた仕事をこなすだけで精一杯だったが、落ち着いて考えてみれば不思議な事が幾つもある。士官候補生といいながら、今まで姿を現す事の無かったゲオルグ。あの傷はどう見てもそう古いものでは無いはずだ。それに思い返せばエスメラルダは食事を運ぶ姿を見かけた事はあったが、皆と一緒に食事をとった事が無かったように思う。その特別な扱いに何かあるのだろうか……?

 サグレスが周囲を見回すと、エスメラルダが太った評議員に手を取られながら話し込んでいる。時々、エスメラルダが困ったような表情を浮かべていた。

 その時、嬌声が上がった。サグレスが振り向くと、その中心には女性評議員に囲まれたゲオルグがいた。座もそろそろお開きになろうかという頃合いだったために、ゲオルグは両腕に女性をとまらせて立ち上がった所だった。

(やっぱり、そういう男なんだよな)

 ゲオルグを見送りながら、そっとサグレスは呟いた。

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