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 とりあえずのところはこの海王をなだめなければならない。しかし、何をどうすれば良いのかさっぱりわからないので、恐る恐るサグレスは海王に声をかける。その耳に届けるために、サグレスは声を張った。

「海王!あなたは海では一番強いはずなのに、何でそんなに泣くんだ!」

 慌てて周囲から困惑と、叱咤が飛ぶ。

「何言ってるんだ、サグレス」

「そもそもまともに会話になるのか?」

「そんな事言ってても、なんとかしないと……」

 甲板上で揉めている内に、いつの間にか海王は歩みを止めて、<我が女神号>を凝視している。その目はサグレスを不思議そうに見ていた。サグレスはその様子に勇気を得て、再び言葉をかけた。

「ファランに陸に帰って欲しくないなら、そうちゃんと言ったのか?お……男なら男らしく自分の言葉で言わないと伝わらないじゃないのか?」

 海王は言われた言葉を反芻するように、まじまじとサグレスを見ている。海面を爽やかな風が吹き抜けていき、白い帆を揺らしていく。腰まで伸びた海王の髪も微かに揺れている。海王の肌は薄青く透き通るような色をしていた。

「闇の兄上にも同じ事を言われたことがある」

 ややあって、海王がポツリと呟いた。闇の兄とは恐らく魔王ルーディンの事だろう。神界を治めるリューン、魔界の王ルーディンそして、この海王の三人が天界十二神の中で時に兄弟神と呼ばれている。

 大きさのせいなのか、海王はややテンポが遅いようだとその時サグレスは初めて気づいた。慌ててファランが口を挟む。

「私は大地の姉さまのところへは戻らないわよ。だから、私の両の足はあそこにあるでしょう」

 ファランは尾びれを振って、船首の少女像を指し示す。その様子を見て海王はしばらく考え込んでいたが、何かを納得したらしく、はにかんだ笑顔を見せた。そして、大事な宝物を手にするようにファランをそっと抱き上げる。手を離すとき、サグレスには少しだけゲオルグが名残惜しそうな様子に見えた。

「側にいてくれる?」

「もちろん。でも私はあなたの恋人では無いから、好きな時に好きなところへ行くけど、ちゃんとあなたのところに戻るわ」

「分かった」

 にわかに嬉しそうな海王に、<我が女神号>の甲板上にほっとした空気が流れる。この騒動もこれで終わりかと思われたが、ファランが海王の手の中から甲板へ声をかける。

「貴女も一緒にいらっしゃい。私達も人の世を離れじきに神々の国に行くのだから」

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