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 ナリュと連れ立って、甲板へ向かう。途中誰にも会わなかったのは、全員が甲板へ上がっているのだと思われた。何か重大な事が起こっている予感がシナーラを襲う。

 最後の扉を開く前にナリュを後ろにしっかり庇って、扉を開いた。シナーラの目に飛び込んで来たのは、海面を埋め尽くすように浮かぶ人の頭。良く見ればそれはすべて人魚の群れなのだった。そして、甲板の上には見慣れた面々……の他にゲオルグにしっかりと抱きかかえられているのは、正に魚の尾を持つ人魚だった。

「人魚……!」

 絶句するシナーラの後ろからナリュが覗き込んで、思わず息を飲む。ナリュの薄い翅が陽光を受けて暗がりの中で僅かに発光していた。

「これは、また」

 ポツリと呟くゲオルグの頬をファランが再びつねって見せるが、今度は幾分優しかった。扉の開く音に振り返ったサグレスはシナーラが連れているのが、娼館で出会った少女だと言う事はすぐに気づいた。更にその背中からは薄い硝子のように透ける翅が伸びている。しかし、そもそも何故船に乗っているのかさっぱり分からない。

「シナーラ。お前何やってるんだ!」

 サグレスの問いにシナーラはナリュを庇うようにしながら悪びれる風も無く答える

「見ての通り彼女は妖精の末裔だ。気がつけば同属がいなくなっていたこの世界から同属を探しに行くところなんだ。まだ、海の向こうには不思議な種族がいるはずなんだ!その証拠にこんなに沢山の人魚がまだ海にはいるじゃないか。これならきっとエルフの里もどこかにあるはずだよ」

 最後はナリュに頷きかけるように言葉を継いだ。

 フェナと呼ばれる神々がまだ人の近くにしばしば現れていた頃には、フェナの力が世界全体に遍く行き渡っていてその影響からか、様々な種族があまた存在していた。大別すると、人に近いところで暮らすのが妖魔やエルフ。人目に付かない様に暮らしているのが妖精と言われている。その他に天使や悪魔と言った存在も時折人前に現れたと言うが、そもそも天使や悪魔は別の世界から現れると言うのが古くからの言い伝えである。

 しかし、フェナが人から遠ざかり、やがてそれら不思議な存在も次第に人々の語る物語の中でだけ、語られるようになってきていた。それがいきなり<我が女神号>の周辺でこれだけの不可思議な現象として現れれている。何かが起こっているのだった。

「女性が乗船していた事を隠していたのはお詫びします。しかし、彼女をここで放り出す訳には行きません。どうか怒りを納めては貰えませんか」

 状況を察したエスメラルダがファランに懇願する。ナリュも頭を下げる。

「大地のお方。貴方の船を汚してしまった事をお詫びします。どうか、お許しを」

 思案顔のファランに海上からもサーリアが勇気を振り絞って絶叫する。

「大地のお姉さま!どうかお慈悲を!」

「憎らしいくらい、人気者ね」

 ゲオルグにだけ届く小声で、ファランは言うと、次には頭を上げて宣言しようとしたその時、少し先の海面上の空間が縦に大きく裂け目を生じた。それは見る見る縦に広がり、やがて帆柱よりも高く裂けた。

「間に合わなかったようね」

 ファランが小さく吐息を吐いた。

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