29
室内は朧げな光に包まれ始めていた。日の出にはまだ間があるようだったが、徐々に明るさを増していく。素肌には朝の冷気が気持ち良い。薄闇で開いた目を隣に向ける。すぐ隣でジョアンナは静かな寝息をたてていた。昨夜は……と思い出しかけて、サグレスは急に顔が火照るのを感じた。床には昨夜着ていた服が散らばっている。一度に、昨夜の事柄が押し寄せてきた。無我夢中で、順序だてて思い出せない。しかし、確かに色々な事が起こった事を覚えている。カッと体中が熱くなってくる。
(何だか、想像していたのとは少し違うような……)
困惑と安堵とそれから少しばかりの自覚があった。ただ、想像していたような今までと世界がまるで違って見えるのかどうかは分からない。それから、サグレスはジョアンナの肌の感触しか覚えていない事に気がついた。盗み見るように、隣を見る。ジョアンナの寝顔は昨夜、階下で見た時とは違って優しく、あどけなく見えた。
ゆっくりと、ジョアンナの線を辿るように眺める。所々、掛け布からはみ出る体は圧巻の一言だった。そのうちに昨夜の感触が蘇ってくる。突如ドキドキと心臓の音が倍ぐらいになった気がした。
「良かったら、またおいで」
速く打った心臓が飛び出る程驚いたサグレスに掛け布の端から優しい瞳が笑っていた。
「送ろうか?」
慌てて首を横に振るサグレスにくすくすと笑いながらジョアンナはそのまま掛け布に潜り込んでしまった。
やがて、服を着けて扉を開いたサグレスが振り返ると掛け布から覗いた手だけが大きく振られていた。その時、ふとサグレスはジョアンナが気を使ってわざと外まで送らなかったような気がしていた。例えばこんな時、誰かに会ったら?
「ありがとう」
届くか届かないかの声と共にサグレスは扉を閉めた。早朝の廊下には誰もいなかった。