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「よぉ」
見慣れた姿を認めてゲオルグは破顔した。つられてロクゼオンにも人懐っこい笑顔が浮んだ。互いに近づくと、どちらも体に似合わず少年のように上体を叩き合う。
「済まなかったな。年寄りどもが足元見やがって……」
「流石、海千山千と感心した所だ。親書だけじゃ足りないとはね」
皮肉な調子のゲオルグにロクゼオンは心配を滲ませた。
「大丈夫か?」
「ん?護衛の件か?生憎だが安く済んだと俺は思っている」
「痩せ我慢しやがって。乗組員が足りないんだろ?」
「イングリアを騙った海賊が出ている以上仕方ない。退治出来ないまでも、手掛かりぐらい掴めれば上出来だろう」
「御託を並べるようになりやがって!随分立派になったもんだ」
ロクゼオンは笑いながらゲオルグの頭を大きな掌でもみくちゃにし始めた。ゲオルグも気にする風もなく、されるままになっている。
「立派ついでにばばぁ共が熱を上げすぎて、丁重に見送りをしろとさ」
流石のゲオルグも目を丸くした。
「……それは、また。丁重にお断りしたいところだが?」
「そんな事したら、俺が勘当される」
ロクゼオンのワザとらしい苦々しげな顔にゲオルグは噴出してしまう。
「いっそ乗ってくか?」
「真面目な話、そうしたい所だ」
ひとしきり笑い声が朝靄に吸い込まれる様に消えていく。やがて、ゲオルグは真顔でロクゼオンを見た。
「例の件だが、話はつけた。後の事はよろしく頼む」
「そうか。助かったよ。実は、向こうはとても乗り気でな。是非にと言われているんだ」
「……」
「地位はそんなに高くは無いが、裕福な家でな。きっと大事にしてくれる。ただ、お前は本当に良いのか?俺にはお前の気持ちはさっぱり分からない」
「幸せになれるように、力になってやってくれ」
頷きかけたロクゼオンは、しかし、再びゲオルグの頭を掻き回した。
「お前もまだまだだな。つけた話が、ついていないようだぜ」
ゲオルグは今朝の事を思い返していた。