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 ゆっくりとイーグルが渡り板を歩きながら振り返るとゲオルグは大柄な男と話始めたところだった。二人はかなり親しげな様子が見てとれた。

「あれは?」

 見知らぬ男をいぶかしむように立ち止まったイーグルにふわりと優しい声が後を続けた。

「ロクゼオン卿、ザルベッキアの評議員のお一人です」

「エスメラルダ……」

 ばつが悪そうに言葉に詰まるイーグルにエスメラルダはさり気ない微笑を浮かべた。波は穏やかに船縁に寄せている。

「お帰りなさい」

「いや、俺は戻らないつもりで……」

「はい。そんな気がしていました。そして、きっと戻ってきてくれるとも」

「……」

 イーグルはつむぐ言葉に詰まってしまう。こういうとき自分の口下手さ加減が嫌になる。そ知らぬ風にエスメラルダは続けた。

「私の事もあの人の事も、あなたのせいではありません。あなたがその事を気に病んでいるのを知りながら、私ははっきりあなたに伝えていませんでした。私の余裕の無さを許してください。それぞれに最善を尽くしたのです。誰にも非はありません」

 エスメラルダの瞳は凪いだ海のようにどこまでも穏やかだった。しかし、それでもイーグルは問わずにいられない。

「しかし、あれ以来二人とも船を離れては生きられないじゃないか!?それは、あの時……」

「イーグル。あなたが何を名乗ろうと、あなたはあなたでしかありません。同じように、どんなに変わっても私は私でしかありません」

「それは……」

「それに、もしかしたら私は自分の変化を一番楽しんでいるのかもしれません」

 つい……と眼を逸らすように港に目をやったエスメラルダの顔には珍しい表情が浮んだ。これを浮かべた女性を見たら、誰もが抱き締めずにはいられないような曖昧な微笑だ。しかし、イーグルを振り返った時にはいつものエスメラルダだった。その翠の瞳は澄み切った色をしているとイーグルは思った。

「何にしても、あなたが船を降りる時は今では無いと思いますよ」

「エスメラルダ……」

 最後の微笑みに毒気を抜かれたイーグルが安堵の溜息を洩らした時、港が騒がしくなっていた。


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