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 シナーラが港の倉庫群に消えると間も無く、朝靄をついて港には新たな人影が現れた。近づくにつれて人影は二つに分かれてそれはゲオルグとイーグルの形をとった。二人はのんびりと港に停泊している船に近づいていく。通りにはまだ人影はまばらである。二人の間に会話は無いが、気心の知れた感じがある。いくつかの船を通り過ぎて、じきに見慣れた船の見えるところに辿り着いた。朝の光が靄を払って船首像をきらきらと輝かせている。

 船首の女神像を眩しく見上げながらイーグルは一人呟いた。

(またここに戻ってくるなんて思いもしなかった)

 戻らぬつもりで船を降りた時を思い出す。随分昔のようにも思えるが、その気持ちに偽りは無い。それでも、未練がましく港を見下ろせる部屋に陣取っていた自分が、今は可笑しかった。あのままゲオルグが来なければ、自分はあの部屋で出航を見送るつもりだったのだろうか?それから?どこへ向かうつもりだったのだろうか。

(彼女はどうしているのだろう)

ふと、何も聞かずに側にいてくれた女性を振り返るようにイーグルは街を見上げた。名前しか知らない彼女。またどこかで出会えるとも思えないが、確かにあの時折れそうな心を支えてくれたミゼア。しかし、港から上り坂に広がる背後の街はごみごみと混み合っていてどこがその部屋だったか見分けがつかない。

 唐突に立ち止まって振り返るイーグルを何も言わずに暫く見守っていたゲオルグだったが、甲板上に人影が現れた事に気付くとイーグルの肩を突付いた。

「我らが眠り姫の謁見だ。後はよろしく頼むよ」

「え?」

 ゲオルグの目線の先にはエスメラルダが微笑んでいた。エスメラルダも船首像の彼女も朝の光を受けて輝きイーグルは眩しさに目がくらみそうだった。エスメラルダの髪が一筋、柔らかい風に吹かれて乱される。視線を外してエスメラルダが髪を掻き揚げている間に、ゲオルグが背を向ける。

「俺、一人でか?」

「悪いが、来客だ。上手く言っておいてくれ」

 イーグルを船に追い立てるように手を振ったゲオルグは新たに港に現れた見慣れぬ男に向き直った。

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