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 目を開いた時に最初に目に入ったのは良く見知った顔だった。部屋の周囲は薄闇に沈んでいる。そこが自分の寝室だと気がついたのは暫くたってからだった。やがてソルランデットの様子に気付いた父―シスヴァリアス提督―は明らかに安堵した様子で枕元に近づいた。

「傷は痛まぬか?」

 その瞬間、脳裏に街での一件が閃いた。慌てて起き上がろうとしてソルランデットは激痛に蹲ってしまった。体中が痛くて声も出ない。

「無理をするな。何度も生死の境をさ迷ったのだから」

 シスヴァリアスは優しくソルランデットを寝かしつけた。いつもは厳しい父がこんなに優しいのはいつ以来だったろうか?ソルランデットがその顔をいつまでも見つめている事に気付いて、シスヴァリアスは真顔になった。

「そなたまで失うのかと正直怖かったが、よく耐えてくれたな」

「……ごめんなさい。僕は与えられた役目を果たせませんでした」

 その時シスヴァリアスの胸に過ぎった思いに気付く事無く、蚊のなくような声でソルランデットは呟いた。

「そなただけで手に負える事では無かった。それに、最後までそなたは勇敢だったと皆、口を揃えて言っておったぞ。シスの末裔に相応しかった、と」

「でも、エディラ様は……?」

「少し休みなさい。眠れば傷も早く治る」

 シスヴァリアスは優しくソルランデットの髪を撫でると静かに立ち上がった。


 シスヴァリアスが退出するのを待ちかねたようにミルチャーが駆け込んできた。

「ソル……ソル!大丈夫か?」

「痛いよ。ミルチャー」

 飛びつくように側に寄ったミルチャーにソルランデットは顔をしかめて見せた。

「あ、すまん」

 慌ててミルチャーは飛びのくと、神妙な顔をして膝をついた。

「ごめんな。俺がいながらこんな目にあわせて」

「そんな……ミルチャーのせいじゃないよ」

「みんな凄く心配してたんだ。医者は血が流れすぎたから、助からないかもしれないなんてぬかすし。それに、お館様も毎日帰られると必ずここに寄られて遅くまで付き添っておられるし……」

「そんなに酷いの?僕」

「あぁ。もの凄く酷い」

 大仰に肯くミルチャーにソルランデットは笑い出した。つられてミルチャーも笑い出す。

「あらあら。ソルは怪我人なのですから、程ほどにね。ミルチャー」

「はい!」

 にこにこと薬湯を持って現れたのはシスヴァリアス夫人だった。

「母様」

「まだしばらくは大人しくしなければなりませんよ。ソルランデット。でないと傷が塞がりませんからね」

「はい。あの……姫様は?」

 差し出された薬に口をつけながらソルランデットは一番気になっている事を訪ねた。一瞬、夫人と目を見交わしたミルチャーは結局は本当の事を口にした。

「行方が知れない。でも、海の上なら海王の手の中だ。きっとご無事でおられる」

 みるみるソルランデットの表情が曇る。

「僕のせいだ……」

「あの場は仕方なかったんだ。お前は精一杯の事をしたんだ」

 今にも起き上がろうとするソルランデットをミルチャーは寝台に押し戻した。

「まずは傷を治すことです。あなたにまで何かあったら私もお父様も……」

 最後は涙で消えた母の声をソルランデットはやりきれない思いで聞いていた。

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